2026年9月18日金曜日

【連続レポ】縄文時代よりの使者③ 米喰い虫は"栗"喰い虫? ―人と共に変化したムシたちの食生活―

 

こんにちは。市史編さん室です。


9月の特別コーナーとして、Love FMで毎週月~木の21:30~23:00まで放送中の「月下虫音」内で放送されておりますゲストコーナー「縄文時代よりの使者」。

こちらは、福岡市史が発行する『新修 福岡市史ブックレット・シリーズ ④ 縄文時代のタネとムシ』の著者である小畑弘己先生(熊本大学名誉教授/福岡市史編集委員会考古専門部会専門委員)と、ラジオパーソナリティの大田こぞうさんとの対談企画です。


前回は、遊動から定住へと生活スタイルが変わったことで、食料を貯蔵する習慣が生まれ、そこにムシやネズミも食料を求めて集まるようになり「害虫問題」が生まれた、というお話でした。

第3回となる今回は、こうして集まったムシについてのお話のようです。


※ 写真はイメージです

縄文時代の人々にとって貴重なエネルギー源となっていたのは、クリやドングリだったとされています。堅い殻をもち保存がきいて、実には多くのデンプン質を蓄えており、とくにクリは甘くて美味しいし、利用もしやすかったことでしょう。

縄文時代の日本では、東日本はクリが多く、九州などはイチイガシなどのドングリが多く見つかっていて、日本の東西でも「主食」が違っていたようです。

また、東日本で見つかった縄文時代のクリの木には生育に人間が関与したと思われる痕跡が見つかっていて、縄文時代から効率よく実を採るために人間が管理していたという説もあります。


甘くて美味しい栗はこれからがシーズンですね!


前回のお話にもあったように、縄文時代の人々はこうしたクリやドングリを採集し、それを貯蔵して暮らしていました。

この「宝の山」には、食べものを求めてネズミや多くのムシたちが寄ってきたわけですが、そこには今から考えるとちょっと意外なムシがいた痕跡が見つかっています。


それが「コクゾウムシ」です。

コクゾウムシといえば、お米に湧く黒いゴマのような害虫。現代では「米喰い虫」として知られています。


この象の鼻のような口が特徴。


ちょっと余談ですが、このコクゾウムシ。一定年齢以上の大人の皆さまには割と馴染みのある、というか見たことくらいはあるという方が多いと思います。まさにわたしたちの生活に馴染んだムシの代表格だと思うのですが、最近は衛生環境やお米の品質管理も機械化が進み厳密化したことで、若い方では見たことがないという方も多いそうです。

出荷側の要因とともに、自炊する機会が減った(外食だけでなくパックご飯やレトルト食品の利用など)ということも、その要因の一つかもしれませんね。

小畑先生曰く、大学で講義をする際、こちらは当然コクゾウムシを知っていると思って話していると、学生さんたちは一様に「ポカーン(゜Д゜)」としていて、思わぬところでジェネレーションギャップを感じ頭を抱えた、とおっしゃっていました。


UnsplashのCristiano Pintoが撮影


閑話休題。


このコクゾウムシの痕跡が縄文時代の遺跡から見つかったというのです。正確には縄文時代の土器にスタンプのように跡が残っていて、これをゴムで型取りしたところ、コクゾウムシだということが分かったのだそうです。

コクゾウムシは米を食べるのが当たり前と考えられていたので、コクゾウムシは米と共に日本に渡ってきたと考えられていました。

お米の栽培(農耕)といえば弥生時代ですが、見つかったのは縄文時代の土器。このことから、見つかった当時(20年ほど前)は「縄文時代の後期にはすでにお米があったんだな」と解釈されていました。


ところが2010年(平成22年)、小畑先生が種子島の三本松遺跡(鹿児島県西表市)で行った調査では、1万年前ほど(縄文時代の中でも古い方の時代)の土器からもコクゾウムシが見つかったのです…!


1万年前の種子島に米があったとはとても想定できず、なぜ米と共に生きていたはずのムシがここにいるのかと大変困惑したのだとか。

ちなみにこの時見つかったコクゾウムシの痕跡は日本国内でも最古の発見例とされていて、また世界的に見ても最古級の家屋害虫と評価された発見となりました。


▼三本松遺跡についてはこちら(発掘調査報告書)

三本松遺跡 -全国文化財総覧-
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/90346




この発見をきっかけにしていろいろと調べていくうちに、「どうやらコクゾウムシは米以外にもクリやドングリを食べていたらしい」という結論が見えてきたのだそうです。

ゾウムシの仲間ではクリギシゾウムシなどはクリを食べる昆虫として知られていますが、コクゾウムシたちも人間が農耕を始めて米を栽培するようになったことで、食べるものがクリやドングリから米に変化したと考えられるようになりました。

コクゾウムシは元は「米喰い虫」ではなく、縄文人にとっては「栗喰い虫」だったんですね。


コクゾウムシは米にだけに依存していて、米と共に来日したわけではなく、もともとはクリやドングリを食べていたのが、環境(人間の食生活)の変化と共に、対象が米になっていった――。

人間がより効率よくエネルギーを摂取したい、あるいはもっと美味しいものを食べたいと考えて食事を変化させていったように、ムシたちもこの人間の生活スタイルの変化に影響されて、食事(加害対象)を変えていった生き物だったんですね。


* * * * * * *


さて、来週はいよいよ最終回。

第4回は、今回のお話でも登場したムシ、そしてタネと土器との関係についてのお話です。


次回もどうぞお楽しみに!




9月17日(木)の放送は、スマートフォンやパソコンのアプリでラジオが聴ける無料サービスradikoでも、放送から1週間以内であればタイムフリー機能で聞くことができます。

すでに聞いてくださった方も聞き逃した方も、ぜひ聞いてみてくださいね!

※ radikoについてはコチラをご覧ください。



月下虫音 (げっかちゅうね) | LOVE FM | 月~木  21:30-23:00

9月のゲストコーナー「縄文時代からの使者」は、毎週木曜日21:45頃~放送!

「縄文時代からの使者」

第1回 縄文時代の定住革命(9月3日放送)>>> 放送後の記事はコチラをクリック(本ブログ内の記事「【連続レポ】縄文時代よりの使者① ギャートルズ的時代のくらしが激変した定住革命とは?」が開きます)

第2回 縄文人たちが直面した新たな大問題(9月10日放送)>>> 放送後の記事はコチラをクリック(本ブログ内の記事「【連続レポ】縄文時代よりの使者② 縄文人たちが直面した新たな大問題」が開きます)

第3回 コクゾウムシは米より先に栗やドングリを食べていた?(9月17日放送)>>> コチラをクリック(radikoのサイトが開きます)



『新修 福岡市史ブックレット・シリーズ④ 縄文時代のタネとムシ』目次

はじめに

第1章 狩猟と遊動の旧石器時代
1-1 旧石器時代のくらしと家
項目情報 旧石器時代とは/旧石器時代の環境/世界の旧石器時代のイエ/旧石器時代の囲炉裏はどこ?/石器ブロックは男性が残したのか?

1-2 旧石器人の道具と技術
項目情報 道具を進化させた旧石器人/福岡市最古の旧石器/朝鮮半島から来た石器/今山で採集された角錐状石器/最初の組み合わせ槍/遊動生活に最適な石器・細石刃/究極の組み合わせ道具・植刃器/週游生活と石材原産地の「埋め込み戦略」/北部九州の旧石器時代遺跡と生活圏/移動生活の必須アイテム・水筒/狩猟場に残された狩猟具/解説コラム① 姶良Tn火山灰の降灰/解説コラム② 繊維と結びの歴史

Column 1 「害虫」が語る衣服の歴史と人類の拡散
Column 2 楽器を奏でた旧石器人
Column 3 考古学の真実とは~発掘者の心得~

第2章 縄文人の自己紹介
2-1 縄文人のくらし
項目情報 縄文人の一生/骨に残る縄文人の病理と生活習慣/墓地の発生/縄文人の利き手/イヌと仲良し縄文人/土偶と祈り/解説コラム① ひっつきむしと縄文人

2-2 縄文人の生活道具
項目情報 平底土器と尖底土器/土器発明の意義/多様な生活材、籠・網・衣類/土器が教える縄文の布と衣/縄文時代の網/福岡市内の編組製品/縄文時代と旧石器時代の道具立ての違いとその意味/罠猟の発達/解説コラム② 見よう見まねの大切さ/解説コラム③ 年代を知る~放射性炭素年代IntCal20~

第3章 遊動から定住へ
3-1 定住はいつ始まったのか?
項目情報 定住という生活スタイル/遊動生活から定住生活への動機の変化(定住革命)/縄文時代の家比べ/屋外の調理施設

3-2 縄文人のトイレとゴミ問題
項目情報 縄文時代のトイレはどこ?/貝塚から出た食べものとゴミ/ゴミ処理問題の発生と森林への負荷/解説コラム① 縄文時代の環境変化①~縄文海進~

Column 1 食料貯蔵とともに始まったムシとの闘い
3-3 縄文人の交易
項目情報 ヒトが動く→モノが動く/交易による資源調達システムの確立/石斧の生産と交易/縄文人のアクセサリー/クロム白雲母と九州ブランドの拡散

3-4 縄文人の対外交流
項目情報 韓国最古の穀物発見/対馬越高遺跡の発掘調査/アカホヤを遡らない隆器文土器/石器石材とクジラ漁/解説コラム② 縄文時代の環境変化②~鬼界カルデラの噴火~

第4章 ムシとの共同生活
4-1 縄文コクゾウムシの発見
項目情報 コクゾウムシの意味するもの/コクゾウムシの起源と害虫化/ムギ害虫とイネ害虫(コクゾウムシの拡散)/イネを食べなかった縄文コクゾウムシ/海峡を越えたコクゾウムシ(食料運搬)/中国初の新石器時代コクゾウムシの発見/解説コラム① 土器圧痕と土器圧痕法

4-2 土器の中のコクゾウムシ
項目情報 土器に練り込まれたコクゾウムシ/冷蔵庫と食器棚の中身―コクゾウムシの居場所―/土器はおうちの中で作られた/土器作りと混和材/土器作りともう一つの混和材/土器圧痕として発見されるタネやムシの特性/解説コラム② 「雑草」を食べた縄文人/解説コラム③ 大原D遺跡は「80%コクゾウムシ」?

Column 1 法垣遺跡のノミとコクゾウムシ
4-3 縄文人のムシとの付き合い方
項目情報 「ガイチュウ」って何?/縄文時代の防虫剤?/縄文時代の害虫たち/縄文人の家に侵入したゴキブリ/ネズミだらけだった縄文ハウス

Column 2 ムシ食はあったのか?

第5章 縄文農耕論の今
5-1 縄文時代の栽培植物
項目情報 四箇遺跡の栽培植物の謎/縄文時代の栽培植物/イネ・ヒエ・オオムギは別時代のもの/解説コラム① ダイズとアズキの見分け方

Column 1 栽培とは?
5-2 「縄文農耕論」とは何か?
項目情報 考古学の「栽培化」と新たな理論/「縄文農耕論」とは?/縄文時代の真の栽培植物とは?/アク抜きか中長期貯蔵か/福岡市内にも縄文晩期の雑穀農耕はあったのか?/樹木を育てた縄文人/植物性資源利用の増大/南九州縄文にヒエ栽培はあったのか/定住化と濃厚開始による人口増加のメカニズム/解説コラム② AIは遺跡出土のタネを同定できるか

Column 2 土器にタネをまいた縄文人

第6章 弥生時代の開始と新たな縄文人像
6-1 縄文時代の稲作
項目情報 時代区分の基準とは/土器圧痕を用いた新たな手法/稲作の始まり=弥生時代の始まりではない?

6-2 新たな縄文時代・縄文人像
項目情報 土器圧痕のタネとムシからみえてきたもの/新たな縄文時代・縄文人

Column 1 X線が見つけた大発見~日本最古の貝殻入り土器~

おわりに


(文責:加峰)


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