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2021年6月19日土曜日

6月19日は「福岡大空襲」の日

太平洋戦争末期の昭和20年(1945619日。この日の深夜から未明にかけて、福岡市にアメリカ軍の長距離爆撃機B29の大編隊が飛来し、1300トン以上の大量の焼夷弾を投下しました。天神、中洲、博多など市内の中心地は焼け野原となり、特に博多部の奈良屋、冷泉、大浜校区、福岡部の大名、簀子、警固校区は大きな被害を受けました。

福岡市は619日を「福岡大空襲」の日として戦災者、戦没者、引揚死没者の追悼式を行っています。博物館では毎年619日を含む会期で企画展示「戦争とわたしたちのくらし」を開催し、戦時期の福岡のひとびとのくらしを紹介しています。今年は、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言にともなって、619日に企画展示を見ていただくことはできませんでしたが、622日(火)からは皆さまにご覧いただけるようになります。


米軍が撮影した空襲後の福岡市の空撮写真。市街地には大きな建造物が残るだけで、多くの建物が焼失したことがわかります。この写真は常設展示室にパネルとして展示しています。

 

企画展示「戦争とわたしたちのくらし30」、今回のテーマは「モノ不足」です。戦争の拡大、長期化は、石油や鉄などの資源の輸入停止につながり、国内にある物資を活用することが必要になりました。物資を軍事に優先的に配分するため、直接戦闘に参加しない「銃後」の国民は、不用な金属を回収したり、金属の代わりに木材、竹、陶器などで代用した「代用品」を使用したりするなど、さまざまな困難に直面しました。


  上から)缶詰の代用品である陶製の「代用食」容器、陶製ボタン、竹製ヘルメット

 

展示で要注目なのは、昨年度博物館に寄贈された新規公開資料、米軍兵士が撮影した終戦後の福岡の写真です。縁を結んだのは、SNSでした。昨年の619日に展示の様子を投稿したところ、これを見た海外の方からご連絡をいただき、寄贈していただけることになったのです。インターネットで世界とつながるって素敵ですね。さて、展示の話に戻すと、寄贈された写真のうち、今回は昭和20年(1945)から21年の福岡のものを公開します。空き地が多く残る天神地区や、米軍に接収された軍需工場など、これまで知られていなかった終戦後の福岡の姿を知ることができます。


   昭和2012月の天神地区。中央に見えるのは市役所と県庁です。がれきの残る空き地が目立ちます。

雑餉隈にあった軍需工場。航空機の部品が大量に残っています。昭和2012月撮影。戦時中、銃後の国民から回収された金属類は、軍需品に使われました。 

板付基地から廃材をもらって帰るひとびと。昭和2012月撮影。戦後もモノ不足が続きました。

 

これらの写真は、戦争とともに進行した「モノ不足」が、戦争が終わってもすぐに解消しなかったことを教えてくれます。空襲で被害を受けた街の復興と、ひとびとのくらしの復旧には、もうしばらくの時間が必要でした。

 

今日という日が、福岡大空襲に思いを馳せ、戦争と平和について考える機会になれば幸いです。

ではでは。

2021年4月26日月曜日

鬼の嫌いな香り、好きな香り?!  企画展「鬼は滅びない」担当ひとこと裏話 其の肆

   

 今年の福岡は、藤の開花が早かったように思います。「藤」といえば、昨今話題の漫画によると鬼は藤の香りが苦手なのだそうです。本展で展示中の「大江山絵巻」【写真1】に描かれている酒呑童子の屋敷には、東西南北に四季が存在し、梅、芒(すすき)萩(はぎ)、菊、柳のほか藤の花も常に盛りを迎えています。藤はあまり例がないのですが、多くが年中行事や風習の中で魔除けや厄除けとされる植物ばかりです。好きなのか?嫌いなのか?一体どちらなのでしょう?

 

【写真1】「大江山絵巻」 右下に藤(東・春)が描かれています。

 

  さて「鬼と香り」と言えば、節分の日に門口に飾る「鰯(ひいらぎいわし)」があります。柊の枝に(いわし)や鯔(ぼら)などの頭を挿したもので、鬼や邪気はその強力な魚臭を嫌がると言われています。(反対に好むとする地域もあるのですけれど…)

  

漫画の中では、藤の「匂い袋」が鬼除けのお守りになっているのですが、季節限定の藤より、産地や種類によっては年中獲れる鰯の「臭い袋」の方がもしや便利なのでは?と考えてしまいました。とはいえ鬼みたいに「刺激的なニオイ」なのでしょうけれどね。(其の壱「鬼はくさい?!」を参照 http://fcmuseum.blogspot.com/2021/04/blog-post.html

  

 また本展での「護摩を焚く」コーナーでは、『源氏物語』を主題とする能の演目「葵上」で、高貴な女性が変じた鬼(六条御息所)について取り上げています。恋敵への強い嫉妬のあまり生霊となる六条御息所は、自身に染み付いた芥子(けし)の香に気づき、自らが護摩で調伏されるべき物の怪(鬼)と化したことを悟る云々というものです。

 

 仏教の世界では、芥子の辛味が災いや不幸を取り除くことに功能がある、芥子の種を焼いて煙を服に染み込ませれば邪鬼払いになる、とされているようです。『源氏物語』に記される「芥子の香」とはどのような香りなのでしょうか。「けし(芥子・罌粟)」には、古くから仏教の護摩で用いられてきた「カラシナ」【写真2】と室町時代に日本に入ってきたとされる「ポピー」(あんぱんに付いている粒々ですね)【写真3】があります。現在ではポピーを護摩でつかうお寺もあるとのことで、園芸用カラシナと護摩用ポピーを使って芥子の香を学芸課鬼殺係が確かめてみました。

 

【写真2】カラシナ(焚く前)

 

 

 

 

 

【写真3】ポピー(焚く前)
 

 

 

 

 

 

 

 焚く前の状態は「無臭」です。わずかにカラシナの種に肥料臭さを感じる人もいました。火であぶる(一部は火に直接投げ込みました)と「バチバチッ」という破裂音とともに香ばしい匂いが漂ってきました。ふむふむ、これが生霊(鬼)を調伏する際の香りなのですね。

 
【写真4】「芥子の香」を嗅ぐ学芸課鬼殺係 

 

 学芸課鬼殺係の表現を引用するならば、「どちらも香ばしいけれど、カラシナはポピーよりツンとする感じ(わずかに刺激的)」、「ポピーは甘く、米粉パンのようなにおい」とのこと。また少量では鼻を近づけないと香りが分かりにくく「芥子の残り香」というには結構な量が必要そうです。一説には六条御息所のお話に出てくる「取れない芥子の香」自体、六条御息所の精神状態が正常ではないことを示している(芥子の香が取れないのは幻覚である)という見方もあるようです。本展では、実験で使ったポピーを(実際に嗅ぐことはできませんが)参考資料として紹介しています。 

 

次週は「鬼を食らう?!」は53日公開です。つづく!

 

 (学芸課鬼殺係・かわぐち)

 

■企画展「鬼は滅びない」は613日(日)まで。

■参考文献

 定方晟2002「芥子粒」『文明研究』(21 

 藤本勝義2002「六条御息所の幻覚の構造―芥子の香のエピソードをめぐって」『日本文学』(51