http://museum.city.fukuoka.jp/exhibition/540/
内緒の話をしましょうか
豊かに枝を広げる松竹梅、仲良く番で水辺に寄り添う鴛鴦、舞い踊る鶴亀。綿布に広がっているのは多幸を表す図柄の数々。娘のために親が誂えたものです。よく見ると、同じ松竹梅でも、形・色合いなど、まったく同じものは一つとしてありません。ひとの思いが同じではないからです。
模様は「筒描」で描かれています。糯米を炊いて作った糊を真鍮の筒先から絞り出して下書きの上に引き、輪郭を防染して模様を染めていく技からそう呼ばれています。絹を染める「友禅染」や、麻に使われる「茶屋染」などと同じ糊置防染の技法です。模様を手描きするので、多様な注文に柔軟に応えることができる、まさに「お誂え向き」の技でした。型染にはない個性的なものもこの技法から生みだされています。
代表的なものに、婚礼に際して大小一対で染める「嫁御風呂敷」があります。嫁ぐひとは、里の記憶を胸にまだ見ぬ生活に入っていきます。鮮やかな模様の風呂敷は、不安のなかで一人嫁ぐひとを優しく見守ってきました。華やかな筒描の数々、見つめていると今にもこれまで秘めてきた思いを語りだしそうです。
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