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2023年4月2日日曜日

博物館出前学習 玄界小学校編 その2

福岡市博物館ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

前回に引き玄界島と博物館の活動のこれまでのあゆみをご紹介します。

前回のブログはこちら → 福岡市博物館ブログ: 博物館出前学習 玄界小学校編 その1 (fcmuseum.blogspot.com))


玄界島の皆さんと博物館とのお付き合いは、昭和47(1972)年に開館した福岡市立歴史資料館時代まで遡ります。同資料館は、昭和53年に玄界島の考古・歴史・民俗資料の所在確認調査を行い、昭和60年に企画展「海に生きる」を開催しました。

これらと並行して、玄界島の皆さんのご協力をいただき、くらしの聞き書き調査や付近の海底調査を行う中で、漁具や生活道具などの民俗資料が福岡市に寄贈されました。

これらの資料は平成2年の福岡市博物館の開館に伴い引き継がれ、さらに新たな寄贈資料も加わって、今日に至るまで玄界島の歴史と文化を伝える資料が少しずつながらも拡充されてきました。

 

                    写真下は海底調査の様子


それまでの取組みに大きな変化が起こったのは、平成28(2016)~29年度に博物館が実施した「博多湾岸《金印ロード》プロジェクト」がきっかけでした。この事業では、島の皆さん特に子どもたちと博物館が協同して、市内の島しょ部の歴史・文化を博物館から、あるいは現地から発信する取り組みを行いました。

 平成29(2017)年3月11日は、玄界島の文化が震災を機にどのように変化したのかを考えるシンポジウムを開催し、同日と翌週18日は「玄界島DAY」と銘うち、島の子どもたちを博物館に招いて、常設展示室で玄界島の歴史を学び、震災以前に玄界島から寄贈されたさまざまな資料を直に見てもらいました。子どもたちは初めて目にする島の生活道具を前に「これは何?」と尋ね、同行の保護者が懐かしそうに「これは荷物を運ぶ道具」などと答える姿が印象的でした。この時、参加者の多くから、震災前の島の様子を伝えてくれるこうしたものを、足腰が弱った高齢者や、日中は海で働いている漁師の人たちにも是非見せたいという声が寄せられました。


そこで翌年3月には、福岡市博物館として初めて、寄贈された資料を里帰りさせる取り組み「おでかけ博物館in玄界島『玄界島の記憶と記録』」を行いました。

玄界島の集会所を会場に、2日間にわたって里帰り資料の展示、福岡市立歴史資料館時代に海底調査を行った当時の職員らを招いての水中考古学講座、小学生よる高齢者への聞き書きワークショップなどを行いました。

里帰り展示の時間は、漁師さんの生活リズムに合わせて初日は午後2時から夜の9時までに設定し、2日目は午前9時から午後3時までとしました(両日ともに開場前から玄関で待機されていた方も!)。会場では、かつて実際に道具を使っていた皆さんが、それらの道具の使い方を子どもたちに身振り手振りを交えながら熱心に語る姿がみられました。

またこの時、地震の被害から免れた古文書や武具、あるいはかつてのくらしの道具をお持ちいただいた方々もあって、それら貴重な資料が博物館へ新たに収蔵されることになりました。

こうした事業を通して、玄界島の皆さんと博物館は、着実に新たな関係を深めてきました。




もうひとつのエポックは、令和3(2021)年8月15日に行った玄界島の盆綱引き調査でした。折しもコロナ禍にあって、博物館職員にとっては久しぶりの玄界島でした。

偶然お会いした玄界中学校の校長先生とお話しをするうち、博物館資料の特別観覧制度の話題になりました。これは博物館に保管されている現物の資料を、調査研究等のために特別に見ることのできる制度です。玄界中学校ではさっそくこの制度を利用し、10月に生徒さんたちが、恒例の博物館体験学習に来館された際に、玄界島沖の海から引き揚げられた磁器や、島の生活資料を見ていただきました。

この日は、玄界島にいらっしゃる先生方にも参加していただくために、オンラインで中学校とつなぎ、ハイブリッドの閲覧形式をとりました。資料の中には生徒さんたちが初めて見るものもありますが、素材を変えて今も使用されている漁具もあります。生徒さんが道具を手に取り「ウニの中身をこうして分けるための道具です」と引率の先生方に説明する場面もあって、普段とはまた違う生徒の一面を見て先生方が驚かれる場面もありました。


その1でご紹介した玄界小学校への出前学習は、これまでの博物館との交流のなかで形となったものでした。

私たち博物館職員にとっては、資料や聞き書きの情報などを活用した新たな交流を通して研究につながるヒントを得られています。それらの集まった情報は、地域の歴史文化の財として形になることもあります。

地域の課題に、博物館が持つ文化財や知財などをどのように役立てることができるか。玄界島の皆さんとの交流をさまざまな形で続けながら、博物館ができることをこれからも一緒に考えていきたいと思います。

 

玄界島についてはこちらから 玄界島自治協議会ホームページ http://genkaijima.com/

玄界島に関係する展示のアーカイブはこちらから 企画展示「島とくらし-玄界島-」http://museum.city.fukuoka.jp/archives/leaflet/512/index.html      

 

(文責:河口綾香 補助:松尾奈緒子)

2023年3月20日月曜日

博物館出前学習 玄界小学校編 その1

福岡市博物館ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

今回は、福岡市西区玄界島で行った出前学習のお話です。出前学習とは、博物館のスタッフが市内の小中学校を訪れ、授業や体験プログラムを行う取り組みのことです。


令和5年1月中旬、玄界小学校の先生から、博物館資料を活用した学習ができないだろうかというご相談をいただきました。対象は、小学校3年生。昔の道具や生活の知恵などを調べることを通じて、道具とともにくらしが変化してきたことを学ぶ、という社会科の単元です。

 玄界島は、18年前の今日、平成17(2005)年3月20日に起こった福岡県西方沖地震に見舞われ、全島避難を余儀なくされるほどの大きな被害を受けました。島の皆さんの団結力が功を奏し、わずか3年で希望者全員の帰島が実現しましたが、この震災をきっかけに、島の歴史や生活の様子を伝える多くの資料が失われました。現在、玄界小学校に通う生徒さんは震災後に生まれており、先生方は震災後の島の環境や生活の在り様を踏まえつつ、震災前の島の歴史や文化をどのようにして子どもたちに伝えていくのか、という玄界島ならではの地域学習の課題をお持ちでした。

そこで先生と相談しながら、「玄界島の昔のくらし」という授業を計画し、学校への出前学習としては初めて博物館資料を館外に運び出すことになりました。

島の将来を担う子どもたちに本物をみて、触れて、五感で島の歴史文化を学んでもらいたいという先生方の熱意がかたちとなりました。45分の授業ですから、持ち込むのは昔と今の島の生活につながるもの、島のくらしを象徴するもの、安全に運搬が可能な3点に絞り込みました。

これであとは渡船が欠航しないよう天に願うだけです!

 

みんなの願いが通じたのか、授業当日(2月16日)はとてもいい天気に恵まれ、博多港を出た福岡市営渡船・みどり丸は無事玄界島へ。今回は、初めての取り組みということで学芸員と教育普及担当職員の計6名で伺いました。港から島の中腹にある玄界小学校までは徒歩。ずっと坂道が続いています。私たちは資料を抱え、かつての島の面影を残す急な石段をのぼり小学校へ向かいました。




授業が始まる前に待機した部屋には、学校の古いアルバムや資料が保管されていました。その中に昭和20年代後半の玄界島の航空写真を発見。急遽こちらの写真を使わせていただくことにしました。

授業の会場となった音楽室に博物館から持ち込んだ資料を並べ、それを布で隠して出前学習のスタートです。講師は民俗担当学芸員の河口。

授業ではまず、さきほどお借りした玄界島の航空写真と、昨年夏に撮影した島の写真を見比べながら、何が変化しているか子どもたちに問いかけました。昔は砂浜があったこと、遠見山の頂上付近まで畑があったこと、車が通れる道が今のようにないことなど、子どもたちが次々に気づいたことを発表します。では、「昔はどんな道だったのか」、「荷物はどのように運んでいたのか」を問うと、子どもたちは「手で運んでいた?」と自分なりの考えを発表してくれました。

これを受けて、博物館で準備した昔の玄界島の生活の様子を写した写真を見ながら解説です。震災前までは、雁木段とよばれた石段で島の人びとみんなが上り下りしていたこと。そして荷物は「オイ」(背負い梯子)を使って運んでいたことなど、写真を見ながらかつての島の生活環境について学びました。

「オイ」について紹介すると子どもたちは「小屋にあるやつだよね」と身近に残る「オイ」の存在に気づき、今と昔で道具の大切さに違いがあることを実感したようでした。


後半では、テーブル上に並べた資料にかけた布をひとつずつめくりながら授業を展開します。

まず細長い鉄の棒「カナテコ」という道具。子どもたちに、棒の先端の形を観察したり、実際に手に持って重さを体感してもらい、「どうやって使うものか」、「何に使った道具であるのか」を問いました。

昔の写真を見ると家の周りが石垣になっている、という子どもたちの気づきから、「カナテコ」は、石垣を造際にテコの原理を使って石を動かすための道具であることを導き出しました。今でも島に残る石垣がどのようにして造られていたのか、石垣を造ることがなくなると道具も必要とされなくなることを伝えることができました。


続いて、古い着物を再利用して作られた昭和時代の手袋や、海士が潜水漁の際に使用した「ハチオ」と呼ばれる藁でできたベルトも紹介しました。なかでも手袋については、「分厚い」「あんまり暖かくない」などさまざまな反応がありました。

手袋の素材にも注目し、木綿布のハギレを組み合わせて作られていることや、中には綿がたくさん詰められていることなど、普段使っている手袋との違いを考えてもらいました。



最後に紹介したのは、昔と今の子どもたちとをつなぐものです。手持ちで島へ運ぶことが難しいこの資料については、様々な角度から撮影した写真を使って問いかけ、それが何の道具か当ててもらいます。

いろいろな言葉が挙るなか、途中で「あかり」という発言が出たところで、資料の全体像を映し出します。それは明治時代に島の夜回りで使用されていた「火の要心」を書かれた手持ちの行灯でした。家々が密集するかつての玄界島にとって火災は大きな脅威の一つでした。一人一人の火に対する意識は、今もずっと受け継がれています。このことを伝える一枚の写真を、ここで子どもたちに見てもらいます。それは午後5時の島内放送の写真です。そこに写っているのは5年前の子どもたちの姿。玄界島ではこの時間になると島の子どもたちが当番で拍子木を打ち「火の用心」と島内放送を通じて家々に呼びかけるのが慣例となっています。行灯と島内放送。昔のくらしは途絶えるばかりではなく、かたちが変化しても今なお受け継がれているものがあることを伝えたかったのです。これからも午後5時の島内放送が続くことを願っています。



最後のまとめでは、子どもたちから先生たちと一緒に島内にある昔のくらしの道具を探しに行きたい、もっと島のことについて知りたいという希望が出されました。

ものに直接触れることによって、子どもたちが島の過去と現在が結びついていることについて深く考えるきっかけになったのならば、この出前学習は成功です。

これから先、島の写真などを一緒に整理してはどうだろう、島内のいろいろな場所を子どもや先生たち、博物館スタッフが一緒に歩いてみるのはどうだろうと、アイデアは膨らむばかりです。


玄界小学校へ資料を館外に運び出す取り組みは、これまでの玄界島での調査や里帰り展示の経験を通じて、現地で資料を安全に輸送するための手段や環境を把握できていたことが大きな後押しとなりました。これまでの玄界島と博物館の活動については、ブログの「その2」でお伝えしますので、お楽しみに。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


(文責:河口綾香 補助:松尾奈緒子)

2022年9月13日火曜日

未来の学芸員を育てる「博物館実習」

福岡市博物館ブログをご覧いただき、ありがとうございます。


今回は、未来の学芸員を育てる「博物館実習」についてのお話です。


皆さんは、「学芸員」という職業をご存じですか?

そう、博物館や美術館で見学できる展示を企画し、つくっている博物館の職員のことです。


学芸員は、博物館法で資格要件を定めている専門職です。

このため、学芸員の資格を取得するためには、大学で博物館に関する知識を得た上で、博物館活動を実地で学ぶ必要があります。

そこで、福岡市博物館では、毎年夏に、県内外の大学から学芸員を目指す大学生を受け入れ、実際に学芸員の仕事を学ぶ「博物館実習」を実施しているのです。

 

今年も、10の大学から12名の大学生を受け入れ、のべ7日にわたって、古代・中世、近世、近現代、美術、民俗、考古、教育普及の各分野の学芸員・職員が、実習の指導にあたりました。

 

資料の展示だけが学芸員の仕事ではありません。

実習生の皆さんには、資料の収集や管理、調査・研究、市民の皆さんに歴史文化に親しんでもらうための普及活動など、普段学芸員が行っているあらゆる業務について、学習・体験してもらいました。









最後には、未来の博物館に関する3つの課題を班ごとに議論し、その成果を発表しあうことで、実習のまとめとしました。

[Aグループ]


課題:福岡市博物館の常設展示は、どのように刷新したらよいか?


通いたくなる展示、珍しいものが見られたという満足感、わかりやすく学べるの3つを軸に、現代から古代にさかのぼる「タイムトラベル」案が示されました。

[Bグループ]

課題:博物館と地域が連携するためには、どのような事業を行ったら良いか?


カフェやレストランを設置し、食材の調達や飲食店の出店などを通じて、地域とのつながりをつくる案がひとつ。
さらに、大学生を中心としたボランティアを募り、博物館での情報提供や館内外でのイベント(池の清掃やウォークラリー、マルシェなど)を開催するのはどうかという意見でした。


[Cグループ]

課題:博物館に来たことがない若年層に来館してもらうためにはどうしたらよいか?


キャンパスメンバーズ制度の導入や、周辺文化施設と共通のテーマで展示を行って回遊性を高めるのはどうかという意見が。

また、市民のくらしと結びつく情報発信を充実させ、休憩スペースを拡充することで居心地良くし、若い世代が気軽に楽しめるような環境づくりをする案が示されました。



実習生の皆さん、本当にお疲れさまでした。

 

当館の学芸員たちも、何事にも真摯に取り組む実習生の皆さんと一緒に仕事をすることで、新たなパワーをもらいました。

 

博物館の未来につながる「博物館実習」。

これからも続けていく、大切な博物館活動のひとつです。

 

(文責:博物館実習担当 松尾奈緒子)