2020年8月12日水曜日

ダルマさんの涼しいお話

毎日暑いので、今回は少し涼しそうなネタをひとつ・・

インドから来て中国・北魏で禅を広めた達磨さんはやがて亡くなり、熊耳山(ゆうじさん)に葬られました。一説には達磨さんの活躍を妬(ねた)んだ別のインド人僧に毒殺されたとも言われます・・

それから3年後のこと、北魏の外交官であった宋雲という人物が西域から帰国する途中、パミール高原でなぜか片方の履(隻履)を持って歩く達磨さんと出会いました。

宋雲「達磨さんじゃないですか、どこへ行かれるのですか?」

達磨「インドに帰るのだ。そうそう、あんたの主(皇帝)は既に亡くなっているよ・・」

宋雲は不思議に思いながらも帰国してみると、はたして皇帝はこの世を去り、また人々が達磨さんのお墓を開けてみると遺体がなく、もう片方の履だけが残されていたのでした。

これがいわゆる「隻履達磨(せきりだるま)」の逸話です。


今回の展示で紹介した歌川広景の「江戸名所道戯尽廿二 御蔵前の雪(えどめいしょどうけづくしにじゅうに おんくらまえのゆき)」〈写真〉も、この逸話を踏まえた内容となっています。

 


真冬の江戸蔵前(現・東京都台東区)は一面の雪景色となり、一人の男が雪だるまの前で下駄の鼻緒を直しています(江戸時代の雪だるまって結構リアルな顔をしていたんですねー)。

この男が雪だるまを作った本人かどうかは定かではありません。ただ、雪だるまの顔の前には夕食の具材とみられる魚(タラ?)とネギが乗せられていて、鼻緒を直している隙に野良犬がそれを狙っているようです。

一見すると、「ああせっかく今夜はタラ鍋で一杯やろうと思ったのに油断も隙もありゃしねぇ・・」と単なる残念なお話のように見えますが、さにあらず。

禅寺ではよく門前に「不許葷酒入山門(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)」と刻んだ標石が立てられているように、ネギなどの臭いのきつい野菜(葷)や酒は建前上禁じられていました。

達磨さんの顔の前に置かれたのはお供えではなく正真正銘の生臭モノ。だから鼻緒が切れて隻履になったあげく楽しみにしていた食材を犬に盗られる、つまり達磨さんの罰(バチ)が当たったというオチなのでしょう。

そういえば男が着ている衣のデザインも仙厓さんの禅画みたいだし、広景さんなかなか芸が細かいですね。 

仏像学芸員


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