2021年9月21日火曜日

9月21日は「世界アルツハイマーデー」です。

 1994年、「国際アルツハイマー病協会」(ADI)は、世界保健機関(WHO)と共同で9月21日を「世界アルツハイマーデー」と定め。2012年には、9月を「世界アルツハイマー月間」とし、期間中、認知症へ理解を呼びかけるさまざまな取り組みが行われています。

 

 博物館と認知症との関わりのひとつに、「回想法」を活用した事業があります。回想法は、懐かしい生活道具などに触れ、自らの体験や思い出を語り合うことで脳が活性化され、精神・感情の安定や対人交流の活性化、認知機能の改善、参加者の生活の質(QOL)の向上につながるとされています。近年では、保健福祉の分野と連携して回想法に取り組む博物館も増えています。

 

  福岡市でも昨年度、福岡市博物館・福岡市美術館・福岡アジア美術館の3館が各館の収蔵品を活用した高齢者向けの回想法プログラム「福岡ミュージアム・シニア・プログラム」を実施しました。回想法はふつう対面で行いますが、今回は新型コロナウイルス感染症感染防止のためオンラインで行いました。

 

  このプログラムは、「家族の日常・非日常」をテーマに、週1回1時間ずつ計5回実施し、同じ高齢者施設に通われる3名(みなさん症状は違いますが軽度の認知症を患っていらっしゃいます)に参加いただきました。 

1回目は、参加者との顔合わせを兼ねたご本人たちのことを知るためのヒアリング 

2回目は、福岡市博物館のレコードと写真を使って日々のくらしについて語るプログラム

3回目は、福岡アジア美術館の家族にかかわるコレクションのアートカードを使って家族について語るプログラム(https://faam.city.fukuoka.lg.jp/manager/wp-content/uploads/2021/07/Ajibi-News-85.pdf) 

4回目は、福岡市美術館の桜が描かれたコレクションや桜の木を活用して花見の思い出を語るプログラム(https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/13609/) 

5回目は、3・4回目の後に制作した絵画の披露と振り返りを行いました。

 

 ここでは2回目に行った博物館の回想法プログラムをご紹介します。当館では、出身も市内在住歴も異なる参加者が共有できそうな収蔵品として1970年代の歌謡曲のレコードと1960年代の天神の街並みが写る写真を使いました。

 

 はじめはみなさん緊張した様子でスタッフとの会話も短めだったのですが、レコードプレーヤーから歌謡曲が流れだすと、歌を口ずさんだり、手でリズムをとったりと、それまでにはなかった動きや参加者同士の会話がみられました。好きな音楽の話になると、故郷にゆかりの民謡を歌ってくださる方もいました。 その後、福岡市でのくらしについて話が進んだところで、かつての天神の街並みの写真をお渡ししました。

 


 ← 博物館の回想法の様子(中央は進行役)

 

 

 


 

 

 

 しばらく写真を凝視したあとの「懐かしい」の声をきっかけに、「デパート(玉屋や井筒屋など)に買う物がなくても行っていた」、「戦後の大きな建物がないとき、(天神の町に)まだ馬車が通っていた」、「中洲の市場で働いていた」など積極的な発話が続き、近くの施設の職員さんに声をかける姿や、他の方の語りにうなずく様子もみられました。中洲の映画館の話題では、「東映」「大洋」などの映画館名がでたり、近くにバーやキャバレー、料理屋があったなど、街の風景を詳細に語られていました。

  

 

 

 ← かつての天神の街並みが写った写真を見てもらい当時の思い出を語っていただきました。

 

 

 

 

 

 ふり返れば、使った資料が多すぎ、後半はみなさんに疲れがみられたことなど課題も残りましたが、声が聞き取りにくい方へのサポートを参加者同士が自然にされる姿や、身振り手振りで思い出した情景をまわりに説明される場面もありました。最後には「気持ちが穏やかになった」、「懐かしくて涙がでるくらい」などの感想をいただき、大きく手を振りあって終了しました。 

 

 高齢者施設の方によると、プログラム終了後に職員さんやご家族との会話に深みが出た方もおられたそうです。また利用者同士の交流が生まれるなど、記憶の回想以上に大きな行動の変化につながったとのお話にはスタッフ一同うれしく感じました。また、博物館にとっては、福岡の街の貴重な情報を教えていただくと同時に、デジタル化した博物館資料の活用や高齢者向け事業の可能性を考えていく貴重な機会となりました。

 

(学芸課 河口)