埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。
この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。
本についてはコチラ。
この連載では「別冊 シーサイドももち」と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。
第1回はコチラ(「よかトピアに男闘呼組がやってきた!」)。
第2回は、さらに時をさかのぼり、昭和の時代にあった海水浴場でのお話です。
〈002〉ダンスフロアでボンダンス
お盆といえば、なんといっても盆踊りですよね!
ここ数年はコロナ禍ということもあり、人が集まるお祭りなんかは中止を余儀なくされましたが、今年は3年ぶりに行動制限のないお盆休みということで、開催されたところもあったようです。
盆踊りといえば、提灯が飾られたやぐらの上に太鼓やお囃子、そして歌い手が立ち、その周りをみんなでぐるぐる、一定のリズムに乗って同じ踊りを踊る…。
この音頭のリズム、もはやDNAに深く刻まれているのでは? と思うほど、正確な振付を知らなくても、自然と身体が動いてしまいます。
盆踊りは日本に限らず、今ではハワイやマレーシアなどでも「ボンダンス」として広まっていて、時には数万人が集まって盛り上がるのだそうです。
そんな一体感も楽しい盆踊りは、今も昔もまさに夏の風物詩です。
なぜか身体が動いてしまう…。 |
ところで昭和初期、当時の福岡市内で初めて盆踊り大会が開催されたのは、実は百道だったという話があることをご存知ですか?
それは昭和3(1928)年のこと。会場は、当時百道にあった海水浴場でのことでした。
百道海水浴場を運営していた福岡日日新聞社(西日本新聞社の前身)はこの年、姪浜町の炭鉱から踊り手を呼んで、盆踊り大会を開催しました(姪浜は昭和8年まで福岡市ではなく早良郡でした)。
これが当時の新聞紙面で「福岡市内で最初の盆踊り」と報じられています(「福岡日日新聞」昭和3年8月15日夕刊)。
盆踊りはそもそも、村や町内など、ごく限られたコミュニティの人々による、死者の供養や地域の娯楽のための行事でしたが、西新で初めて行われた盆踊りは、別の地域から踊り手を呼んだ〝イベント盆踊り〟だったんですね。なんて都会的…。
盆踊りが普及していった背景には、レコードやラジオの存在が大きな意味を持っていました。
昭和8(1933)年に「東京音頭」が大ヒットしたことで音頭ブームが起こり、戦後は昭和23(1948)年に発売された赤坂小梅の「炭坑節」の大ヒットなどにより、民謡ブームが巻き起こります。そして、これらのヒット曲が盆踊りに採用され、広まっていきました。
こうして広まった盆踊りですが、昭和20年代後半になるとさらに大きな進化を遂げていきます。当時のレコード会社は、戦後に各所で設立された民謡(民踊)団体と提携し、制作した音頭や民謡に振付をして「踊る音楽」として売り出しました。今でいう、ダンスミュージックです。
そうしたダンスミュージックが求められた背景には、戦時中の厳しい抑圧から解放された若者の間でフォークダンスやスクエアダンスなど、みんなで踊る〝ダンス〟(レクリエーション)が流行していたこともありました。
その中で、盆踊りもレクリエーションの一環として広まり、年齢を問わず楽しまれたのでしょう。
さらに、レコード会社はプロモーションのため、また協会は民踊普及のため、新曲レコードを流して日本舞踊の一流の師匠が踊りを教えるという、その名も〝ボンダンス講習会〟を、全国各地で開催します。
百道海水浴場は夜も営業していたので、こうしたボンダンス講習会や、またフォークダンスなどのダンスパーティの会場として頻繁に利用されました。百道の浜は、夜な夜な若者が集まる場所でもあったようです。
最近話題になる、Bon Joviやサカナクションの曲に合わせて盆踊りを踊るという、いわば〝盆踊りアップデート〟ですが、実は昨日今日に始まったものではなく、約50年前の若者も同じように、盆踊り会場をダンスフロアにして、みんなでボンダンスを楽しんでいたんでしょうね。
ダンスフロアでボンダンス! ※ イメージです。 |
ところで、戦後の〝民謡ブーム〟ではさまざまな「音頭」が作られますが、今でも知られている「サザエさん音頭」もその一つです。
「サザエさん音頭」は昭和29年にキングレコードから発売。B面は「かっぱ踊り」で、歌詞カードには2曲の振付解説が付いていました。
そして発売から5年後、百道で開催された「海浜フォークダンスパーティと盆踊り」では、ついに百道でも「サザエさん音頭」が踊られたのです!(昭和34年8月4日、キングレコード・日本ビクター・講談社協賛)
ご存知の方も多いでしょうが、百道の浜は長谷川町子さんがサザエさんの構想を練った「サザエさん誕生の地」としても有名です。
町子さんが「サザエさんうちあけ話」(昭和53年「朝日新聞」日曜版で連載、翌年に姉妹社より刊行)で百道のお話をするずっと前に、百道の浜ではサザエさん音頭が踊られていた…そう考えると、偶然にもサザエさんは思ったよりも早い時期に、百道に〝里帰り〟を果たしていたのでした。
#シーサイドももち #海水浴場 #盆踊り #ボンダンス
[Written by かみね/illustration
by ピー・アンド・エル]