2023年3月28日火曜日

福岡市史講演会「西島伊三雄と都市福岡のデザイン」を開催しました

2023年3月4日(土)、第17回福岡市史講演会「西島伊三雄と都市福岡のデザイン」を開催し、多くのお客様にご来場いただきました!


今回の講演会は、いまでは「福岡の顔」ともいえるグラフィックデザイナー・西島伊三雄(にしじま・いさお/1923-2001)による仕事を振り返り、それらが福岡というまちのイメージ形成に与えた影響と、いままさに転換期にある福岡のこれからを考えることをテーマに開催しました。

これまで市史講演会では、『新修 福岡市史』の編さんを通じて得られた学術成果や地域の歴史にまつわるテーマが多かったのですが、今回はこれらとはちょっと毛色の異なる、ややチャレンジングな試みです。


このようなチラシをつくりました。
左下の写真は若かりし頃の西島伊三雄さん!



12時30分、続々とお客様がご来場(事前にお申込みいただき、ありがとうございました)。
そんな中、壇上のスクリーンでは生前の西島伊三雄さんの映像を流し、皆さまにご覧いただきました。

この映像は、専門学校日本デザイナー学院九州校の生徒さんのために制作されたもので、物体の捉え方や描き方など、伊三雄さんが実際に絵を描きながら独特の語り口(ザ・博多弁!)で楽しくレクチャーされている様子が映し出され、場内の皆さんも熱心に見入っておられました。

真剣に絵筆を握る西島伊三雄さん。

九州の形を捉える方法の解説でしょうか。

西島伊三雄さんといえばこの笑顔!


また、ロビーでは伊三雄さんが手がけた書籍の一部を紹介する展示コーナーも展開。
こちらも多くのお客様にご覧いただくことができました。

こんな感じでロビー展示を行いました。

展示したのはほんの一部ですが、それでも数の多さに驚きます。

皆さん足を止めてご覧くださっていました。




そんな伊三雄さんの温かい人柄と実際のお仕事に触れていただいたところで、いよいよ講演会がスタートです。



まずは伊三雄さんのご子息であり、アトリエ童画社長の西島雅幸(にしじま・まさゆき)さんが粋な着物姿でご登場!

西島雅幸さん。

ところでこの羽織を裏返した衣装は博多どんたくの「肩裏(すらせ)」というもので、羽織の裏に描かれた絵を見せるというもの。
これが古くから伝わるどんたくに参加する際の「正装」で、博多ッ子の粋の象徴だそうです。

表はこんな感じ。羽織を肩脱ぎのような感じにするんですね。


そして背中には伊三雄さんの絵が…!
このような絵がチラッと見える所が粋なんです。




さて、お話の方は「西島伊三雄が残したもの」と題して、伊三雄さんが手がけてこられた作品の数々(修行時代の貴重なお話も!)や、博多に根差した多くの活動について一つ一つ振り返っていただきました。

今でも見る「萬代」や「おたふくわた」の広告は
図案屋として初期に関わったお仕事だそう!


また、伊三雄さんの代名詞ともいえる「童画」が生まれた背景にあった第二次世界大戦時の従軍体験、そして有名な福岡市地下鉄のシンボルマークに込められたふるさとへの想いなど、伊三雄さんの多彩な仕事ぶりと、ふるさとを愛した伊三雄さんの人間味あふれるエピソードが、雅幸さんの軽快な博多弁によって語られました。

伊三雄さんといえばおなじみの「童画」。




続いて、専門学校日本デザイナー学院九州校校長であり鍋島段通の作家でもある大庭香代子(おおば・かよこ)さんが加わって、「教育者としての西島伊三雄」をテーマに、西島雅幸さんと二人でお話しいただきました。

大庭香代子さん。
こちらもステキなお着物でのご登壇です。


お二人のお話からは、1970年大阪万博の幻となった西島伊三雄デザインのシンボルマークや即席ラーメン「うまかっちゃん」のデザインにまつわる裏話など、思い出とともに知られざる逸話がさらりと飛び出します。

右が実際に採用になった大高猛デザインのシンボルマーク。
左が一度は決定した西島伊三雄デザインのマーク。下の2つもカッコイイ!


あの文字と絵が西島伊三雄さんというのはよく知られていますが
「うまかっちゃん」というネーミングの発案も実は伊三雄さん!


伊三雄さんは生前、弟子や生徒に対しても技術的な事はあまり多く語らなかったそうですが、よく「みんな仲良うしようや」「ものをよく見なさい、よく観察しなさい」とおっしゃっていたそうです。
この言葉からは、おおらかでありながら、時に鋭く時勢を読み、求められているものを見極めて描いていく背中が想像されました。

「すらせ」について皆さんに説明してくださった西島雅幸さん。




休憩をはさみ、次は新天町にある「ギャラリー風」の代表である武田義明(たけだ・よしあき)さんに「図案屋からグラフィックデザイナーへ」と題して、福岡のデザイン史の中からみた西島伊三雄についてお話しいただきました。

武田さんはギャラリー風で福岡のクリエイターや作家、また美術やデザインの道を志す学生の活動を後押しするだけでなく、福岡のデザイン業界について自ら『風の街・福岡デザイン史点描』(花乱社、2017年)や『福岡現在芸術ノート』(花乱社、2021年)など著作としてまとめられています。


武田義明さん。


福岡の広告業界や当初「図案家」と呼ばれた人々の活動は、昭和初めに本格的に始動しますが、その後の戦中、そして戦後の高度成長期にいたる時流の中での広告・宣伝業界を見ていくと、「図案屋」は「デザイナー」となり、時代の求めに応じてその活動が紆余曲折してきたことが分かります。
彼らは戦前の商業美術連盟や戦後の日本宣伝美術に代表されるようなデザイナーによる団体を各地で立ち上げ、個人活動だけではなく一緒になって切磋琢磨していったのでした。

そういった活動を引っ張った仲間の一人が、のちに作家となる松本清張さんでした。

武田さんのお話からは、福岡の西島伊三雄さんや小倉の松本清張さんが、それぞれの地で中心となり団体活動を活発化させたことで、地方でも東京からの仕事を待つだけでなく、デザイナーたちが力を合わせて自らの存在を発信していこうとしていたことが分かりました。

〝デザイナー〟松本清張さんの初期作品もご紹介くださいました。




つづいて、松本大学からお越しいただいた古川智史(ふるかわ・さとし)さんに、「福岡の広告産業の特質について」と題してお話しいただきました。

古川さんのご専門は「経済地理学」です。経済地理学とは、経済活動に地理的要素がどのくらい影響を及ぼしているかを研究する学問で、経済学と地理学の両方に関連しています。
以前、ご自身のご研究の中で福岡の広告産業を取り上げておられた関係で、今回唯一、福岡の外からの視点でのお話をお願いしました。

古川智史さん。


お話では、首都圏の広告業界では段階ごとに仕事が分業化されていることが多いそうですが、福岡の広告業界では、個人のデザイン事務所の活動が盛んで各自が対応できる範囲が広く、市場規模がコンパクトな分、横のつながりが強いことが特徴として挙げられました。

また、広告を発注する側とそれを受けて作る側の両方に、「支店が多く小売業や流通業が盛んである」という福岡独自のまちの特徴も、大きく影響しているようでした。

客観的に福岡の広告業界を捉えた、興味深いお話でした。




さて、プログラムの最後はシンポジウムです。

これまでご講演いただいた皆さまに加え、ファシリテーターとして福岡市史編集委員会の有馬学(ありま・まなぶ)委員長が参加し、テーマである「西島伊三雄と都市福岡のデザイン」について、西島伊三雄をはじめとしたデザイナーの仕事が都市のイメージ形成に与えた影響に迫りました。

有馬学 福岡市史編集委員会委員長。


皆さんのお話は多岐にわたり、戦中におけるグラフィックデザイン界の大きなうねりのなかで、福岡の中心人物がまさに西島伊三雄であったこと(有馬委員長)、それは博多の祭り文化によって育まれたこと(西島さん)、あるいは根底にあった郷土愛がデザインと結びつき(武田さん)、都市化によるニーズによってそれが表出していったこと(古川さん)など、とても興味深い切り口での話題が飛び交いました。





また、現在も地下鉄マーク企業が作るカレンダーなど、日常的に「西島伊三雄デザイン」に触れることで、次世代にもそのイメージが伝わっていく(大庭さん)といったお話もあり、福岡で暮らす人々の身近にあった西島伊三雄デザインが、結果として人々の中にある福岡というまちのイメージ像を作り上げるのに大きな影響を与えたことが、皆さんのお話の中から徐々に浮かび上がってきました。


最後に有馬委員長から「福岡は2千年にわたって外部との交流で成立・発展している都市であり、だからこそそこから福岡の今後を考えていくことが重要。福岡というローカリティの中から育ってきたデザイナーがどう活躍していくかに期待したい」という展望が語られ、シンポジウムのまとめとなりました。





そして〝締め〟は雅幸さんからのご発案で、伊三雄さんが愛した童謡「ふるさと」をご来場の皆さまと一緒に歌ってなごやかに閉会しました。

最後は親交のあった小松政夫さんが伊三雄さんについて語った
ナレーションで締めるという贅沢さ!



講演会にお越しくださった皆さま、また講師の皆さま、長時間にわたりご参加くださり、本当にありがとうございました!

また、今回の講演会は準備の段階から「一般社団法人福岡デザインアクション(FUDA)」さんに多大なご協力をいただきました。
ここで改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

▼福岡デザインアクションについてはコチラ。



なお、この講演会の様子は、福岡市博物館公式YouTubeでの動画公開も予定しています(鋭意動画編集中です!)。
また講演記録も、来年3月末に発行予定の『市史研究 ふくおか』第19号への掲載を予定しておりますので、そちらもどうぞお楽しみに!



らーめんたい((C)西島伊三雄)



text by さだきよ&かみね

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