2018年7月17日火曜日

浄土九州展ブログ 西方に極楽あり その9

この仏像、何年?

「この仏像は鎌倉時代に制作された可能性が高いと思いますが、後の時代の修理も入っているので・・」

仏像学芸員はお寺などで調査をさせてもらうと、相手に何がしかの結果を伝えねばなりません。しかし、住職は「はあ、そうですか・・」と狐につままれたような表情で頷き、「以前、○△先生は平安時代とおっしゃいましたがね?」と、半信半疑の眼差しを向けてこられます。そこで、今回は仏像の制作年代をどのようにして見分けるのか?という問題を取り上げましょう。

ご存知かもしれませんが、仏像には特定の時代や地域、仏師集団などに共通する「様式」があります。例えば平安時代には平安時代の、鎌倉時代には鎌倉時代の様式があって、同じ「阿弥陀如来坐像」でも体の厚みや衣のシワ(衣文=えもん)のあらわし方、構造や技法などもかなり異なります。自動車などの乗り物や私たちが身に付ける衣服のデザインと同じですね。要は各時代の典型的な仏像を数多く頭に入れておけば、それが時代を計るモノサシになるということです。

ただ、仏像の中には過去の様式をわざと取り入れたものや後世の修理による改造、あるいは九州という地域性を考慮すべきものもあって、なかなか一筋縄ではいかないのも事実。
以下は「佐賀の番長」ことT氏と佐賀県多久市・専称寺の阿弥陀如来坐像を調査したときのやりとりです。

同 左側面
専称寺阿弥陀如来坐像(正面)



同 背面
末吉「ほら、構造が内刳(うちぐ)りのない一木造(いちぼくづくり)で翻波式(ほんぱしき)の衣文に渦巻文が刻まれている。耳朶不貫(じだふかん=耳たぶに孔が開いてないこと)だし、頭も六波羅蜜寺の薬師みたいに肉髻(にくけい)と地髪部の段差が少ない。10世紀後半でどう?」

T氏「ん~。まあそうかもしれんばってん、渦巻文とかは図像を写したら時代が下ってもできるとよ。それに全体にボリュームが少なかけん、11世紀前半じゃなかと?」

こんな〝攻防〟を持てる限りの知識と経験、観察力を駆使しながら、それはしつこく重ねて制作年代を突き詰めていきます。そしてこんな会話も・・

T氏「1015年。」
末吉「985年。」


もちろん、様式だけで何年と断定できるはずがなく、制作年代だけが作品理解のすべてでもありません。これは良くも悪くも、熊本の大先輩O倉さんの「はっきり物を言わんといかんバイ!」という指導の賜物でしょう。

でも、もし仏像に耳と心があったとすれば「惜しい!」と呟いているかもしれませんね。

Posted by 末吉(浄土九州展担当学芸員)

0 件のコメント:

コメントを投稿