2018年8月6日月曜日

浄土九州展ブログ 西方に極楽あり その12:プロフェッショナル

プロフェッショナル

今回は展覧会で公開される仏像がどのようにして博物館まで運ばれるかについてお話ししましょう。

8月1日の9時頃、某所から仏像学芸員末吉を載せた日本通運の美術品専用車(業界用語で美専車)が出発しました。向かう先は柳川市の玉樹院(ぎょくじゅいん)というお寺です。玉樹院は2年前の熊本地震で本堂が被害を受け、今月から再建工事に入るため他より早めにご本尊の阿弥陀如来立像と両脇侍像をお預かりすることになったのです。

玉樹院 阿弥陀如来立像

九州自動車道を走って予定通り10時半に到着。ご住職さんに挨拶すると、「魂抜きをしておきましたから」ということでした。これで安心してご梱包作業や展示ができますね。実際に作業するのは日通九州美術の4名の作業員さんたち。彼らは美術品取り扱いのプロフェッショナルで、今回はベテラン2名、中堅1名、若手1名の組み合わせのようです。

梱包作業中の日通さん 汗だくです

まず、左右の脇侍(きょうじ)菩薩像を本体、光背、台座の順に外して仏壇から降ろします。そして学芸員が保存状態を点検し、それが終わったら薄葉紙(うすようし)で頭部や手を養生し、担架に乗せて梱包します。午後からは阿弥陀如来像を同じ要領で梱包していきます。

ちなみに玉樹院の阿弥陀如来像は口を開けて歯をあらわしています。「歯吹きの弥陀」と呼ばれる珍しい作例で、しかも鎌倉時代の制作と推定される極めて文化財的価値の高い仏像です。

ちゃんと歯があります

見ていると、日通さんはベテランが若手に「ここをこうするんだよ」というように丁寧に指導しているようです。文化財の梱包の中で仏像は最も難易度の高い仕事と言えるでしょう。こうして現場の技術は受け継がれていくわけですが、昔と比べると教え方がずいぶん優しくなった(羨ましいなあ)とも思います。

今から25年前、僕が学芸員になりたてだった頃「国宝法隆寺展」の集荷作業に投入されたことを思い出しました。法隆寺に行って目の前に出されたのは国宝「玉虫厨子(たまむしのずし)」!!名だたる奈良国立博物館の学芸員や関西日通の作業員さんたちの中で必死に点検をしたのですが、当時の日通さんはみんなこわもてで恐ろしく、いきなり銃弾飛び交う戦場に投げ込まれたような感じがしました。

それはともかく、当日は36度の猛暑日で汗だくになりながら作業を終えたのが16時頃、博物館に無事搬入を終えたのが18時頃でした。皆さんおつかれさま。

展覧会の中で何が一番大事かというと、お客さんがたくさん入るとか学術的に評価されるとかではなく、やはり全ての作品・資料を元通りに所蔵者に返すことですよね。本格的に集荷(お預かり)が始まるのはお盆明けからですが、展覧会を陰で支えてくれている美術品輸送のプロフェッショナルたちにこの場を借りて心から敬意を表します。

Posted by :末吉(浄土九州展担当学芸員)

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