松風の音をかなづる松の木の幾千代移りこの赤き壺 澤田藤一郎
この赤き壺は、「赤く美しい」ことが、最大の特徴です。文化庁の重要文化財説明によれば、「弥生式土器完形品中の白眉である」。鮮やかな赤い色の土器が多い福岡の弥生土器の中でも、ひときわ美しい土器です。全面に塗っているのは、「ベンガラ」と呼ばれる酸化鉄成分の赤い塗料です。表面をよく見ると、口から頸にかけて、10本前後をひとまとまりにした縦線が見られます。「暗文」と呼ばれるもので、土器を作るときにヘラで軽く線を引き、ベンガラを塗って、文様のようにしたものです。
この赤き壺は、西区城ノ原から出土したと伝えられています。どういう状態で出土したかよくわかっていませんが、土器の表面の劣化がほとんど見られないことから、この土器が砂地にあった可能性が高いと思われます。城ノ原近くの砂地と言えば生の松原が思い浮かびますが、残念ながら正確な出土場所は分かっていません。
この赤き壺は、ほとんど欠けたところが無い良好な状況とその優美さから、1967(昭和42)年に国の重要文化財に指定されました。
この赤き壺は、1982(昭和57)年に福岡市に寄贈されました。旧蔵者は、澤田藤一郎氏で、氏が亡くなられた後、ご令室のヒサ氏より寄贈されました。澤田藤一郎氏は、1985(明治28)年、岩手県花巻市で生まれ、盛岡中学校では宮沢賢治と同級、その後九州帝国大学医学部に進み、台北帝国大学や九州帝国大学医学部教授などを歴任されました。
この赤き壺は、澤田氏によって「歌」としても詠まれました。澤田氏は歌人としても活躍されており、「赤い壺」と題した連作があります。冒頭の一首もそのひとつです。
求めたる弥生の小壺の素朴さを紫檀の台にのせてながむる
国指定重要文化財
名 称 壺形土器
指定日 1967年6月15日
重要文化財 壺形土器(福岡市埋蔵文化財センター所蔵)は、普段、福岡市博物館の常設展示室で公開していますが、「ふくおかの名宝」展の会期中(2020年10月10日~11月29日)は、特別展示室で展示します。
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