2022年9月2日金曜日

【別冊シーサイドももち】〈003〉よかトピアの「パオパオ・ロック」とは。

埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。


この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。


本についてはコチラ


この連載では「別冊 シーサイドももち」と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。


過去の記事はコチラ。

1(「よかトピアに男闘呼組がやってきた!」)

2(「ダンスフロアでボンダンス」)

 




〈003よかトピアの「パオパオ・ロック」とは。


アジア太平洋博覧会(よかトピア)の「ヤングフェスティバル1」は、男闘呼組の登場で大人気でした(→男闘呼組の記事はコチラ)。

この「ヤングフェスティバル」、「1」があるということは「2」もありました(「3」はないです…)。


その名も「ヤングフェスティバル2 ニッサン・パオパオ・ロック」。

「1」と同じリゾートシアターを会場にして、7月24日(月)~29日(土)に開催されています(博覧会入場料のみで、イベントは無料)。


よかトピアは、7月1日から毎日夜間開場を始めたため(21時まで)、イルミネーション・光のパレード・花火などを目当てに、夜の入場者も増えていました。

今回の「ヤングフェスティバル2」は、そういう夜のよかトピアでの開催。

24日(月)19時30分からの前夜祭でスタートしました。


前夜祭は、リゾートシアターを巨大ディスコに見立てた「トワイライト・ディスコ・パーティー」。

MCは永淵幸利(BUTCH)さん、DJは吉田俊二さん、今も福岡のFM局などでご活躍のお二人を迎えて、音楽・おしゃべり・仮装大会でイベントのスタートを盛り上げました。

ディスコというのがバブルっぽい企画で、いいですよねー。


(福岡市博物館所蔵パネルより)
海沿い会場はやっぱりこちら、ビーチに面したリゾートシアター!


25日からは、毎日アマチュアバンドのコンテストとゲストミュージシャンのコンサートの組み合わせ。


このころは「三宅裕司のいかすバンド天国」(通称「イカ天」)の放送が1989年2月に始まって、空前のアマチュアバンドブームです。

福岡からもたくさんのバンドがイカ天に出場していきました(「THE KIDS」「たけのうちカルテット」「F.E.W.」「SOLID BOND」etc.)。


(ただ福岡ではイカ天の放送開始が遅れたため、番組初期に次々と現れた人気バンドをリアルタイムで見られず、悔しかったことを思い出します。「パオパオ・ロック」がおこなわれた7月といえば、コミカルなのに演奏は実力派だった「宮尾すすむと日本の社長」が勝ち抜いていたころでしょうか)


そうしたバンドブームにのって、「ヤングフェスティバル2」はプロ・アマをまじえたロックバンドのお祭りとなりました。

毎回16時(26日は17時)から始まるコンテストで出場者を応援して、19時からはゲストのコンサートを楽しむというスケジュールです。


ゲストは25日(火)が桑名正博さん

「セクシャルバイオレットNo.1」の大ヒットで有名ですよね。

よかトピアへの出演は、シングル「そこからがパラダイス」(しっとりした名曲)、アルバム「For Paradise」の発売を予定していた時期でした。


つづく26日(水)は池田政典さん

今では俳優や声優(アニメ『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』の志々雄真実など)として活躍する池田さんですが、当時はアイドルなみに大人気の歌手です。

アニメ『きまぐれオレンジ☆ロード』の主題歌にもなった、軽快な曲調の「NIGHT OF SUMMER SIDE」がヒットしました。

よかトピア出演直前にはシングル「冷たいベッドでDance」を発売していて、こちらはベースのスラップ(チョッパー)が印象的で、重厚な80'sアレンジがかっこいい曲です。


ゲストがなかった27日を経て、28日(金)はシーナ&ザ・ロケッツ(シーナ&ロケッツ)

いよいよ福岡ロック界の大先輩の登場です。

シナロケはこの翌月にアルバム「DREAM & REVOLT」を発売するのですが、このアルバムは、作曲を鮎川誠さん(G&Vo)、作詞をかつて鮎川さんとバンド「サンハウス」を組んでいた柴山俊之さんが担当された名盤。

福岡のファンにとっては特に大事なアルバムの発売を間近にしたタイミングでの、よかトピアのステージとなりました。


29日(土)は、かまやつひろしさんが出演してトリを飾りました。

元ザ・スパイダースのメンバー(G&Vo)で、「バン・バン・バン」「あの時君は若かった」などたくさんのヒット曲をつくったかまやつさんは、「ムッシュ」の愛称で親しまれた日本ロック界の大御所。

よかトピア出演時には、シングル「キスの下手な男」のリリースを控えていました(9月21日発売)。


こうしてふり返ってみると、はやりのバンドコンテストを取り入れたり、ゲストに近い時期にシングル・アルバムを発売する旬のミュージシャンをブッキングして、絶好のプロモーションの場にしたりと、観客・演者の双方が楽しめる企画になっていました。


ところで、イベントの名前「パオパオ・ロック」って、かわいいですけど、全然ロックっぽくないですよね…。


このイベントの協賛は福岡県日産自動車グループ。

日産といえば、1989年1月に〝パイクカー〟の第2弾「PAO(パオ)」を発売したばかりでした。

テーマは「冒険心」、車名は遊牧民の移動式家屋を意味する「包(パオ)」から名付けられたそうです。


この車、無骨なのに丸目をしたかわいい外観、棒状の素朴なハンドルの向こうに見える愛らしい丸いメーター、パチパチと上下させる操作が楽しいスイッチ類、鉄なのにあたたかみを感じさせるダッシュボードなど、乗っているだけで楽しい車でした。

見た目はレトロですが、ベースが日産マーチでしたので、運転免許をとって間もなく友達に乗らせてもらったときに、意外に乗りやすいなーと感じたのを覚えています。

今でも大事に乗っている人が多く、若い世代にも人気がある車ですよね。


よかトピアが開かれた1989年の日産は「PAO(パオ)」推し。

「パオパオ・ロック」はこの車名から名付けられたものでした。

博覧会ではパビリオンだけでなく、イベントも企業が新商品をアピールする絶好の場になっていたわけですね。


レトロでかわいい日産パオ。本のなかにもイラストでさりげなく登場しています。
レトロでかわいい日産パオ。本のなかにもイラストでさりげなく登場しています


ところで、バンドコンテストですが、応募した250組からテープ審査を経て(オリジナル曲のみ)、57バンドが会場での予選・決勝に出場しました。

2200人収容の会場、ゲストと同じステージ、最高の音響・照明で演奏できるのは、どのバンドもうれしい思い出になったはすです。


さてそのなかで優勝したバンドは…。



残念…。実はその記録がまだ見つからないのです…。

全力で探しているのですが、今のところ表彰式の写真1枚のみ。

その写真から、あのバンドではないかとあれこれ想像してはいるのですが、決め手はなく…。


優勝したご本人の方、「私たちが優勝しました!」とご連絡くださらないでしょうか…。






#シーサイドももち #アジア太平洋博覧会 #よかトピア #日産パオ #パオパオ・ロック #私たちが優勝しました



参考文献】

・『アジア太平洋博ニュース 夢かわら版'89保存版』((株)西日本新聞社・秀巧社印刷(株)・(株)プランニング秀巧社企画編集、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1989年)

・『アジア太平洋博覧会―福岡'89 公式記録』((株)西日本新聞社編集製作、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1990年)

・Webサイト「日産ヘリテージコレクション」 https://nissan-heritage-collection.com


Written by はらださとしillustration by ピー・アンド・エル]


※ 2023.4.28 タイトルを変更しました。

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