さる10月14日(月・祝)、毎年恒例の福岡市史講演会を開催しました。
市史講演会は今回で19回目となり、毎年1回だいたい秋ごろに開催しています。
第19回福岡市史講演会のチラシ |
ありがたいことに、いつも多くの方がお越しくださるのですが、今回はとくに申込みの時点で定員を大幅に超えてしまっため、やむなく抽選となってしまいました。
残念ながら落選してしまった皆さまには、せっかくお申込みいただいたにもかかわらずお断りせざるを得ない状況になってしまい、本当に申し訳ございません。
なんとか落選した方にもご覧いただけないかということで、市史講演会としては初めての試みでしたが、YouTubeでのライブ配信も行うことにし、多くの方々にご視聴いただくことができました。
開演を待つ会場の様子。 |
今回のテーマは「近代都市福岡の発展と筑豊炭坑家」。
大正期~昭和初期の資料を集めた『新修 福岡市史 資料編 近現代3 モダン都市への変貌』(令和6年3月刊行、以下『資料編 近現代3』)の内容にちなみ、当時の福岡の都市発展について、安川敬一郎や麻生太吉といった筑豊炭坑家たちとのかかわりから見ていくという趣旨の講演会です。
『資料編 近現代3』では、九州大学附属図書館記録資料館に寄託された膨大な「麻生家文書」のうち、「麻生太吉宛安川敬一郎書簡」をはじめ、大正前半期の福岡市長候補者選定や安川敬一郎の衆議院選挙立候補に関する資料を掲載しています。
そのご縁で、今回の市史講演会は同館との共催という形で行い、会場も西新の樋井川沿いにある「九州大学西新プラザ」(早良区西新2丁目16-23)での開催となりました。
樋井川沿いに建つ九州大学西新プラザは、
九州大学創立80周年記念事業の一環として
平成13年に建てられた施設です。
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今回のプログラムは次のとおり。
講演1本と報告2本、そして講師そろってのシンポジウムという3部構成です。
[講演]
遠城 明雄 先生
(九州大学大学院 教授/福岡市史編集委員会 近現代専門部会副部会長)
「福岡市の都市発展と市政の展開」
[報告]
日比野 利信 先生
(北九州市立自然史・歴史博物館 学芸員/福岡市史編集委員会 近現代専門部会専門委員)
「安川敬一郎と福岡市」
原口 大輔 先生
(九州大学附属図書館付設記録資料館 准教授)
「麻生太吉と福岡市」
[シンポジウム]
パネラー:遠城明雄先生・日比野利信先生・原口大輔先生
コーディネーター:有馬 学 先生(九州大学名誉教授/福岡市史編集委員会 委員長)
開催にあたっては、まずは記録資料館館長である井手誠之輔先生にご挨拶をいただきました。
ご挨拶いただいた井手誠之輔先生。 |
そしていよいよ本編がスタートです。
まず最初は、遠城明雄先生によるご講演「福岡市の都市発展と市政の展開」。
市史の編集を通して見えてきた、福岡市の都市発展(市制施行~昭和初期)の特徴を、「インフラ整備と工業化」、「近世と近代」、「中央と地方」というキーワードをもとに、講演いただきました。
遠城先生ご講演の様子。 福岡市の近代化は「社会資本の整備と工業化」がカギとのこと。 |
次に、日比野利信先生によるご報告「安川敬一郎と福岡市」。
安川敬一郎がどのような人物であったか、福岡市にどう関わったかを、生い立ちや家族関係、その後の事業展開などをふまえて、福岡市での政治的な動向はもとより、教育的、文化的な貢献についても報告していただきました。
ご発表いただいた日比野先生。 長年安川敬一郎についてご研究されており その成果の一端をお話しいただきました。 |
2本目のご報告は、原口大輔先生による「麻生太吉と福岡市」。
麻生太吉は購入整備した浜の町別荘(現・中央区舞鶴3丁目付近)を拠点として、電力会社合併や製鉄会社誘致など福岡市での事業展開を計画していた一方で、同業組合の運営など政治的手腕にも高い期待が集まっていた、とのことでした。
ご報告いただいた原口先生。 記録資料館での「麻生家文書」整理事業を踏まえて お話しいただきました。 |
プログラムの最後は、すでにご登壇いただいたお三方に加え、有馬学福岡市史編集委員会委員長をコーディネーターとして、ここまでの内容を総括し、さらに理解を深めるためのシンポジウムを行いました。
短い時間ではありましたが、麻生や安川が残した資料について、また近代都市の発展と現代への転換についてなど、話題は多岐にわたりました。
コーディネーターをお願いした有馬先生。 |
「麻生家文書は少なくとも10万点を数える膨大なもの。 段ボール箱にして1600個程度はあります」(原口) |
「安川敬一郎資料は古文書だけで約1000点。 麻生に比べると少なく思えますが、膨大な資料です」(日比野) |
「福岡市は工業化がなかなか進まなかった。 だからこそいろいろなものを受け入れることができて 変化しやすかったのではないでしょうか」(遠城) |
最後に有馬先生から、「やっぱり歴史はとにかく1にも2にも資料ありき。資料が残っていなければ、われわれは過去を再構成できないのです。幸いにして内容豊かな大きな資料を残していただいたので、そういうものを活用しながら、多様な地域の歴史というものをこれからも掘り起こしていきたいと思います。」とのコメントがあり、シンポジウムは幕を閉じました。
ご来場くださった皆さんの中にはもともと炭坑の歴史に関心があったという方も多かったようで、皆さん熱心に先生方の話に聞き入っておられました。
「筑豊炭坑家」というと北九州との関係をまず思い浮かべがちですが、今回のような福岡市の市政や経済など都市発展に深く関わっていたというお話は、新鮮な驚きだったのではないでしょうか。
ご講演ご報告くださった講師の先生方、講演会にお越しくださった皆さま、本当にありがとうございました。
なお、今回の講演会の様子は、福岡市博物館公式YouTubeチャンネルから全編ご視聴いただけます(動画はプログラムごとに分かれています)。
また、来年3月に発行予定の研究誌『市史研究 ふくおか』第20号には、講演会記録として内容を掲載する予定ですので、こちらもどうぞお楽しみに!
※『市史研究 ふくおか』は福岡県内をはじめとする各図書館で閲覧が可能です(非売品)。くわしくは、コチラをクリックすると『市史研究 ふくおか』についての紹介ページがご覧いただけます。
本書は、今回の講演会で取り上げた麻生家文書のほか、大正~昭和初期の福岡市が近代都市として成立していく足跡を示す資料群を多数掲載しています。
大正時代から昭和初期までの福岡市の政治・行政・社会の動向を中心に、今日の福岡市の出発点となった「モダン都市」への変貌を資料から浮き彫りにした一冊です。
基本的には古文書や公文書などの資料を翻刻したものですが、資料の概要をまとめた解説も載っていますので、今回の講演会で初めて福岡市の近代史に関心をもってくださった方も、よかったらぜひお手にとってみてください。
『新修 福岡市史』は、各図書館のほか、販売については福岡市博物館ミュージアムショップをはじめ、ジュンク堂書店福岡店さんや丸善博多店さんなどで購入できます。
※「資料編 近現代3」についてはコチラをクリックすると目次などの紹介ページがご覧いただけます。
(文責:鮓本・加峰)
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