2021年10月6日水曜日
福岡市博物館が『縁結び大学』に紹介されました!
2021年9月21日火曜日
9月21日は「世界アルツハイマーデー」です。
1994年、「国際アルツハイマー病協会」(ADI)は、世界保健機関(WHO)と共同で9月21日を「世界アルツハイマーデー」と定め。2012年には、9月を「世界アルツハイマー月間」とし、期間中、認知症へ理解を呼びかけるさまざまな取り組みが行われています。
博物館と認知症との関わりのひとつに、「回想法」を活用した事業があります。回想法は、懐かしい生活道具などに触れ、自らの体験や思い出を語り合うことで脳が活性化され、精神・感情の安定や対人交流の活性化、認知機能の改善、参加者の生活の質(QOL)の向上につながるとされています。近年では、保健福祉の分野と連携して回想法に取り組む博物館も増えています。
福岡市でも昨年度、福岡市博物館・福岡市美術館・福岡アジア美術館の3館が各館の収蔵品を活用した高齢者向けの回想法プログラム「福岡ミュージアム・シニア・プログラム」を実施しました。回想法はふつう対面で行いますが、今回は新型コロナウイルス感染症感染防止のためオンラインで行いました。
このプログラムは、「家族の日常・非日常」をテーマに、週1回1時間ずつ計5回実施し、同じ高齢者施設に通われる3名(みなさん症状は違いますが軽度の認知症を患っていらっしゃいます)に参加いただきました。
1回目は、参加者との顔合わせを兼ねたご本人たちのことを知るためのヒアリング
2回目は、福岡市博物館のレコードと写真を使って日々のくらしについて語るプログラム
3回目は、福岡アジア美術館の家族にかかわるコレクションのアートカードを使って家族について語るプログラム(https://faam.city.fukuoka.lg.jp/manager/wp-content/uploads/2021/07/Ajibi-News-85.pdf)
4回目は、福岡市美術館の桜が描かれたコレクションや桜の木を活用して花見の思い出を語るプログラム(https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/13609/)
5回目は、3・4回目の後に制作した絵画の披露と振り返りを行いました。
ここでは2回目に行った博物館の回想法プログラムをご紹介します。当館では、出身も市内在住歴も異なる参加者が共有できそうな収蔵品として1970年代の歌謡曲のレコードと1960年代の天神の街並みが写る写真を使いました。
はじめはみなさん緊張した様子でスタッフとの会話も短めだったのですが、レコードプレーヤーから歌謡曲が流れだすと、歌を口ずさんだり、手でリズムをとったりと、それまでにはなかった動きや参加者同士の会話がみられました。好きな音楽の話になると、故郷にゆかりの民謡を歌ってくださる方もいました。 その後、福岡市でのくらしについて話が進んだところで、かつての天神の街並みの写真をお渡ししました。
← 博物館の回想法の様子(中央は進行役)
しばらく写真を凝視したあとの「懐かしい」の声をきっかけに、「デパート(玉屋や井筒屋など)に買う物がなくても行っていた」、「戦後の大きな建物がないとき、(天神の町に)まだ馬車が通っていた」、「中洲の市場で働いていた」など積極的な発話が続き、近くの施設の職員さんに声をかける姿や、他の方の語りにうなずく様子もみられました。中洲の映画館の話題では、「東映」「大洋」などの映画館名がでたり、近くにバーやキャバレー、料理屋があったなど、街の風景を詳細に語られていました。
← かつての天神の街並みが写った写真を見てもらい当時の思い出を語っていただきました。
ふり返れば、使った資料が多すぎ、後半はみなさんに疲れがみられたことなど課題も残りましたが、声が聞き取りにくい方へのサポートを参加者同士が自然にされる姿や、身振り手振りで思い出した情景をまわりに説明される場面もありました。最後には「気持ちが穏やかになった」、「懐かしくて涙がでるくらい」などの感想をいただき、大きく手を振りあって終了しました。
高齢者施設の方によると、プログラム終了後に職員さんやご家族との会話に深みが出た方もおられたそうです。また利用者同士の交流が生まれるなど、記憶の回想以上に大きな行動の変化につながったとのお話にはスタッフ一同うれしく感じました。また、博物館にとっては、福岡の街の貴重な情報を教えていただくと同時に、デジタル化した博物館資料の活用や高齢者向け事業の可能性を考えていく貴重な機会となりました。
(学芸課 河口)
2021年7月5日月曜日
社会科への恩返し /『わたしたちの福岡市』はこんな本
市史編さん室の宮野です。今回は、先日から店頭に並び始めた『新修 福岡市史 ブックレット・シリーズ① わたしたちの福岡市 –歴史とくらし–』(以下 『わた福』)について、ご購入を検討されている方のご参考になればと思い、編集意図や活用方法について簡単にご紹介させていただきます。
※『わた福』の概要や目次についてはこちらを、販売元の梓書院のサイトはこちらをクリックしてご覧ください。
※福岡で活躍される著名人の方々にもご紹介いただきました。ありがとうございます。
1、子どもに地域の歴史を伝えるのは誰?
市史編さん室では、当初、「市史ブックレット」の第一弾として、子ども向けの歴史本を考えていました。そこで、取り掛かりとして子どもたちと日常的に接している学校の先生の意見を聞くため、市教育センターを訪ねました。編さん室としては、歴史に対する子どもたちの関心度合いや表現上で気をつけた方が良いポイントなど聞こうと思っていたのですが、先生たちからは予想外の答えが返ってきました。それは、福岡市の先生たちが、近年は市外出身の人も多く、また、忙しいこともあり、郷土の歴史について、教材研究を十分に行えていないというものでした。子どもたちに福岡の歴史を伝える前に、先生をはじめとする大人の皆さんに知ってもらう必要があると私たちは痛感しました。こうして、ブックレットの第一弾は、子ども向けの本を作るという当初の方向性を改めて、学校の授業や家庭教育で使ってもらえるような内容を目指すことになりました。
先生たちに地域の歴史を知ってもらう方が先なのでは?
た、たしかにそうですね。
2、学校での学習内容と市史の成果を結びつける
まず、最初に取り掛かったのは学習指導要領の再確認です。近年の改訂で郷土教育の比重が高まったことは知っていましたが、具体的に各出版社の教科書と照らし合わせながら、各学年で学ぶ内容をおさらいしました。おおまかにいえば、3年生で市町村のこと、4年生で都道府県のこと、5年生で国のこと、6年生で政治や歴史のことを学ぶので、市史編さん室としては3、4、6年生で学ぶことの、歴史に関わる部分にターゲットをしぼって素材集めを始めました。例えば、「市の様子の移り変わり(3年)」では、『新修 福岡市史 特別編 自然と遺跡からみた福岡の歴史』の成果を使うことができました。また、「地域にみられる生産や販売の仕事(3年)」、「地域の安全を守る働き(3年)」、「県内の伝統や文化、先人の働き(4年)」、「県内の特色ある地域の様子(4年)」については、『新修 福岡市史 特別編 福の民』や『新修 福岡市史 民俗編二』が大いに参考になることが分かりました。このようにして、社会科で活用できる内容を市史の過去の成果から抽出、整理する作業を続けていきました。
3、一般の読者の方にとっても分かりやすい工夫を
今回の『わた福』は学校現場での活用を第一義的に考えていました。そのため、学校の先生たちにとっては何年生のどの単元なのかを素早く理解できるようにページの左側に学年と単元名を入れ、目次でも総覧できるようにしました。しかし、『わた福』は一般書籍としても流通させるため、書店で普通に手に取られた方にも楽しんでいただけるような構成にする必要もありました。そこで、学年・単元にとらわれない組み換えを行い、最終的な構成は、第1章「福岡らしさとは?」で市の対外的なイメージを、第2章「福岡という空間」で空間と時間的な移り変わりを、第3章「土地に刻まれた記憶」で地名、石碑、高低差、埋蔵文化財などについて、第4章「くらしといとなみ」では、生活インフラ、産業、様々な生業に携わる人びとの言葉を、第5章「興し、伝え、守る」では、過去・現在にわたって福岡をもり立ててきた人びとの事績を紹介し、第6章「福岡のあゆみ」で、人びとが暮らし始めてから現在にいたるまでの福岡の出来事を年表にまとめました。
アレをこっちにして、ナニをそっちですね。
4、「One more thing」を忘れずに
一通り話を聞いたあとに、「実はもう一つとっておきがあるんだ」というオマケはとてもうれしいものです。『わた福』での「もう一つ」は、巻末付録の「ふくおか調べ物案内」のページです。この本だけでは紹介しきれなかった情報へ読者がアクセスできるように、福岡市の歴史を調べる上での参考文献を網羅的に集めました。調べてみて分かったのは、福岡市には地域単位で発行された記念誌類が思いの外多かったということです。ただ、これらの本は部数も少なく、関係者に配布されて終わりというものもあるので、新しくその地域に来られた方にも分かるように、図書館で閲覧できる本を中心に校区やジャンルごとにまとめました。ちょっとマニアックかも知れませんが、便利な資料集にしたつもりです。
「One more thing…」 「Yeah!!!!!」
5、社会科への恩返し
小学校で習う主要な教科の中で、社会科は地域のことやそこで暮らす人びとの営みを学ぶので、教材が全国一律にはならないという点で少し特殊です。だからこそ先生たちにとっては教材研究のやりがいのある面白い教科といえるかもしれませんが、負担が大きい教科であることも否定できません。今回の『わた福』は校区単位の細かいお話までは触れることはできませんでしたが、先生たちの授業の一助やご家庭での学習のお役に立てたらうれしいです。この本をきっかけとして、掘り起こされた地域の歴史が大人から子どもたちへと引き継がれ、将来の福岡のまちづくりの担い手が育っていくことを願います。歴史に携わる者として自分たちを育ててくれた社会科に少しでも恩返しができれば本望です。
おまけ
自主学習や自由研究のテーマ選びにこんな活用例はいかがでしょうか?
・「ふくおか校章マップ」(第1章)→ご近所の会社のマークを調べよう
・「昔の人が考えた未来」(第2章)→市の都市計画を調べてみよう
・「言い伝えのある樹木」(第3章)→ご近所の古い木のいわれを調べよう
・「地域のモニュメント」(第3章)→ご近所の石碑マップを作ろう
・「地名と歴史」(第3章)→ご近所の電信柱に書かれた地名を調べよう etc.
本書を活用した子どもたちの研究成果がございましたら、市史編さん室までお気軽にお知らせください。
2021年6月19日土曜日
6月19日は「福岡大空襲」の日
太平洋戦争末期の昭和20年(1945)6月19日。この日の深夜から未明にかけて、福岡市にアメリカ軍の長距離爆撃機B-29の大編隊が飛来し、1300トン以上の大量の焼夷弾を投下しました。天神、中洲、博多など市内の中心地は焼け野原となり、特に博多部の奈良屋、冷泉、大浜校区、福岡部の大名、簀子、警固校区は大きな被害を受けました。
福岡市は6月19日を「福岡大空襲」の日として戦災者、戦没者、引揚死没者の追悼式を行っています。博物館では毎年6月19日を含む会期で企画展示「戦争とわたしたちのくらし」を開催し、戦時期の福岡のひとびとのくらしを紹介しています。今年は、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言にともなって、6月19日に企画展示を見ていただくことはできませんでしたが、6月22日(火)からは皆さまにご覧いただけるようになります。
米軍が撮影した空襲後の福岡市の空撮写真。市街地には大きな建造物が残るだけで、多くの建物が焼失したことがわかります。この写真は常設展示室にパネルとして展示しています。
企画展示「戦争とわたしたちのくらし30」、今回のテーマは「モノ不足」です。戦争の拡大、長期化は、石油や鉄などの資源の輸入停止につながり、国内にある物資を活用することが必要になりました。物資を軍事に優先的に配分するため、直接戦闘に参加しない「銃後」の国民は、不用な金属を回収したり、金属の代わりに木材、竹、陶器などで代用した「代用品」を使用したりするなど、さまざまな困難に直面しました。
上から)缶詰の代用品である陶製の「代用食」容器、陶製ボタン、竹製ヘルメット
展示で要注目なのは、昨年度博物館に寄贈された新規公開資料、米軍兵士が撮影した終戦後の福岡の写真です。縁を結んだのは、SNSでした。昨年の6月19日に展示の様子を投稿したところ、これを見た海外の方からご連絡をいただき、寄贈していただけることになったのです。インターネットで世界とつながるって素敵ですね。さて、展示の話に戻すと、寄贈された写真のうち、今回は昭和20年(1945)から21年の福岡のものを公開します。空き地が多く残る天神地区や、米軍に接収された軍需工場など、これまで知られていなかった終戦後の福岡の姿を知ることができます。
雑餉隈にあった軍需工場。航空機の部品が大量に残っています。昭和20年12月撮影。戦時中、銃後の国民から回収された金属類は、軍需品に使われました。
板付基地から廃材をもらって帰るひとびと。昭和20年12月撮影。戦後もモノ不足が続きました。
これらの写真は、戦争とともに進行した「モノ不足」が、戦争が終わってもすぐに解消しなかったことを教えてくれます。空襲で被害を受けた街の復興と、ひとびとのくらしの復旧には、もうしばらくの時間が必要でした。
今日という日が、福岡大空襲に思いを馳せ、戦争と平和について考える機会になれば幸いです。
ではでは。
2021年5月17日月曜日
ついてゆけない…鬼やばな活用?! 企画展「鬼は滅びない」担当ひとこと裏話 其の漆
「鬼胡桃」、「鬼教官」。大きいものや怖いもの表すときに言葉の頭に「鬼」をつけることがあります。一方で「鬼〇〇」という用法はそれだけでなく、若者言葉としてもつかわれ続けているようです。
言葉の年鑑『現代用語の基礎知識2020』の若者用語の解説をのぞいてみると、「意味、使用法の進化系」のカテゴリに「鬼」が「とても。やばいくらい。」という強調表現として採集されています。過去の『現代用語の基礎知識』をめくってみると、2006年くらいからこのような説明で「鬼」が記載されています。
もう少しさかのぼってみると、1989年には「鬼ざん」という言葉が載っていました。解説には「鬼のような残業。デートなどの約束がある時にいや応なしに押しつけられる残業。」とあります。鬼のような……拘束時間や内容が長い・重いというところでしょうか。ここでは「残業」自体がネガティブワード、というのもありますが、「鬼」自体もどちらかというとネガティブなイメージをもってつかわれていそうですね。
翌年の90年には、「鬼」単独で採録されています。解説には、「ものすごく、鬼ごみ、鬼ぶす」とあり、こちらの用例もマイナスイメージの単語の強調になっています。
用例に変化が出てくるのは94年からです。「鬼うま、鬼かわ、鬼ごみ、鬼こわ、鬼すご、鬼だる、鬼へん(へんてこ)」と用例のバリエーションが一気に増え、ポジティブな単語にもつかわれています。
ちょっとくすっとしてしまったのが98年。「鬼」が採録されているカテゴリは「超強調」。「いくら強調してもし足りないほど言葉が不足している」とことばが添えられていました。
さて、『現代用語の基礎知識』2010年~2020年には「鬼○○は最上級を意味する。」と書かれていますが、ここまで『現代用語の基礎知識』に頼りすぎてしまったので、ここで少し視点をひろげて「鬼」用例を拾ってみたいと思います。若者言葉としての「鬼○○」は2010年代に入ってさらに広がりを見せているようです。
「鬼コ」
これは2015年「ギャル流行語大賞」(GRP by TWIN PLANET)で6位にランクインした言葉です。聞きなれない方は「コ」が何を意味するのか考える楽しさがありますね。どんな意味でしょう。
正解は、鬼コール。ひたすら電話をかけ続けること、でした。
(隣の先輩いわく「鬼電」ならわかるけど!「鬼電」なら!!!)
続きましてギャル雑誌eggの「egg流行語大賞2018」(株式会社MRA)にはこんな「鬼」用語がふたつランクインしています。
6位「鬼盛れ」
2位「鬼パリピ」
「鬼盛れ」は「すごく盛れる事」とあります。ちなみに「盛る」は物理的に高さ、大きさを出していく・(話を)おおげさにいうという意味もありますが、最近はSNSにあげる写真映えなども関係してきらびやかする・見栄えをよくするという意味でも使われているように思います。「鬼盛れ」したらテンション爆アゲよいちょまるですね。
さて、学芸課鬼殺係のメンバーでふと、「鬼」って言葉としても滅びずに現役だよね、なんて話から意識し始めた「鬼」若者言葉ですが、今回初耳で悔しかったのが最後にご紹介の「鬼パリピ」です。
こちらは「鬼」よりもさらに上級表現。「鬼パリピかわいい!」(とんでもなくはちゃめちゃにかわいい!)などという使い方をします。ここでの「パリピ」、パーティーピーポーの略語も強調表現の一種なのだそうで、「鬼」+「パリピ」ということで、それは大変な強意を感じます。うーん、若者言葉の勢いの凄まじさには、もはやぴえんこえてぱおん。
ということで、「鬼」は若者言葉の強調表現として、少しずつ用法を変えながら少なくともここ30年ほどつかわれ続けてきたようです。その用例を見ているとポジティブな意味にも多くつかわれています。
まさに、「いくら強調してもし足りないほど言葉が不足している」若者にとって「鬼」とは、良いも悪いもなく、ただただ物足りなさを補うときの心強いアイテムなのかもしれません。
「鬼」しか勝たん!
企画展「鬼は滅びない」連載ブログ担当ひとこと裏話、これにて閉幕……!
(学芸課鬼殺係・さとう)
■企画展「鬼は滅びない」は2021年6月13日(日)まで開催中。
※緊急事態宣言の発出を受け、5月31日(月)まで閉室中です。
2021年5月10日月曜日
鬼瓦は鬼じゃない?! 企画展「鬼は滅びない」担当ひとこと裏話 其の陸
鬼瓦は鬼じゃないって?!そんなわけないやん。だって「鬼」瓦なのに。
あれ?鬼の顔じゃなくて「水」って書いてある。こっちのは花だし、あっちのは家紋?動物や七福神が付いているものまであるばい!!
そもそも日本で使われ始めた頃は、神獣や蓮の花がモチーフとして使われていて、僕たちがイメージする「鬼瓦」となったのは室町時代のことなんだって。
次週「ついてゆけない…鬼やばな活用?!」5月17日公開です。つづく!
(学芸課鬼殺係・考古担当)
■企画展「鬼は滅びない」は2021年6月13日(日)まで開催中。
2021年5月3日月曜日
鬼を食らう?! 企画展「鬼は滅びない」担当ひとこと裏話 其の伍
中国では、古くから「鬼」によって引き起こされる「鬼病」が研究されてきました。紀元前後に記されたさまざまな医書には、その症状や治療法が記されています。今回は、「鬼病」にまつわる裏話をご紹介します。
まず、ひとくちに「鬼病」と言っても、さまざまな種類があります。
原因が思い当たらないのに突然体が痛んだり出血したりする場合や、夢や現実で鬼に出会い不調をきたす場合、鬼に憑りつかれておかしくなる場合、そして伝染性の病などが、「鬼」のせいだと考えられていたようです。
「鬼病」というと何か特殊な、遠い世界の話のようですが、たとえば原因が思い当たらないのに体が痛んだり出血したりするケースは、誰しも経験があるのではないでしょうか。
特に何をしたわけでもないのに鼻血が出やすい人、いますよね。個人的には、いつのまにかスネに打ち身(青タン)が出来ていることがよくあります。あれは、鬼の仕業だったんですねえ。
夢に鬼が出てくることもありえますし、伝染病も日常的なリスクです。「鬼病」とは、案外身近な病だったのかもしれません。
古い医書によれば「鬼病」の治療には、薬や鍼(はり)・灸(きゅう)などの医学的治療と、現代では理解しづらい呪符や呪文などの呪術的治療が、併用されていました。
呪術的治療の例を、ほんの一部ご紹介しましょう。
今では解読困難なものも多くありますが、「鬼病」に用いられる呪文には、鬼を威嚇し退去を命じる内容のものがよくみられます。鬼が逃げ出せば「鬼病」は治ると考えられていたのでしょう。
中には「鬼を食らう」と宣言する呪文もあるようです。
鬼に食べられるのは御免ですが、かといって鬼を食べるのもなかなか…呪文とはいえ、胃腸のあたりがもぞもぞします。相当の覚悟がないと出来ないことだよな、と当時の医療者と現代のあれこれを思い出します。
「鬼を食らう」という発想は、美術資料や説話集ではあまり見かけません。医学分野には、少し特殊な「鬼」観がみられるようです。(参考:企画展示解説「鬼は滅びない -Demons Die Hard-」」
呪術的治療をもう一例挙げましょう。
医書に残る最古の「鬼病」として知られるのは「■(き)※「鬼」の右上に「支」と書くのですが変換できず…」という病です。その予防治療には「東側に張り出した桃の枝」が使われました。
一見不思議な素材指定ですが、ピンときた方もいらっしゃるでしょう。
東といえば「朝日」を浴びる方角ですし「桃」も本展でご紹介したとおり、どちらも鬼を退ける力を秘めたものだからです。(参考:博物館ブログ「鬼は朝日が苦手?! 企画展「鬼は滅びない」担当ひとこと裏話 其の参」)
神話や説話集に出てきた鬼除けアイテムが、実際に暮らしのなかで使われていたなんて、鬼の存在がよりリアルに感じられてわくわくしませんか。
なおこの「■(き)」とは、鬼が母親の腹の中にいる胎児に嫉妬心を起こさせ、先に生まれた兄弟児に下痢や発熱悪寒を引き起こす、という現代人二度見必至の病ですが、後代になるとこの症状は、母親の懐妊や悪阻に伴って乳離れさせられたことによる乳児栄養失調症であるとされ、「弟見悪阻(おとみづわり)」などと呼ばれるようになります。
医学の進歩によって「鬼病」はひとつひとつ解体され、別の病になっていったのかもしれません。スネの打撲傷も、今や鬼ではなくて不注意のせい…世知辛い!
次週「鬼瓦は鬼じゃない?!」は5月10日公開です。つづく!
(学芸課鬼殺係・ささき)
■企画展「鬼は滅びない」は6月13日(日)まで。
■参考文献:長谷川雅雄、辻本裕成、クネヒト・ペトロ著「「鬼」のもたらす病(上)」(『南山大学研究紀要』2018


















