釣道楽の世界展の見どころなどをご紹介するシリーズ。
第2回は「日本最古の釣り指南書「何羨録(かせんろく)」」です。
この本、何がすごいのかというと、とにかく“総合的”なのです。
冒頭では中国の古典を引用して釣り人の心得(美学)を説き、江戸周辺の釣り場を紹介、それから道具をイラスト入りで解説、さらには天気の予測の仕方を伝授などなど、釣りに関するあらゆる情報を網羅しています。
特に面白いのが釣り鉤の部分。絵の脇に「○○流」とあり、武道や芸道のように釣りにも流派があるように書かれています。
さて、この指南書、いったいいつ頃のものだと思いますか?
いろいろ説はあるのですが、享保元(1716)年か同8(1723)年には成立していたといわれています。今から300年も前です。
そして、気になる著者は、津軽采女(つがるうねめ 1667〜1743)という人物です。この人、政兕(まさたけ)という立派なお名前がございまして、本来の身分は4000石の旗本。陸奥弘前藩主津軽家の分家の三代目にあたる人物です。そして、なんと妻の実父は忠臣蔵で有名な吉良上野介こと、吉良義央。
この本は采女が40代後半〜50代前半に執筆したものですが、彼が若い頃から長年にわたって培った釣りのノウハウが凝縮されていることと推測されます。
大坂夏の陣が終わって100年余り、島原・天草の一揆から数えても80年以上が経ち、実戦を経験した武士が居なくなっていた時代、釣りを武道のように理論化し洗練させていこうとする人物が登場してきたのは面白いことです。
本展ではこの「何羨録」の良質な写本を2種類(岐阜県図書館蔵、国立研究開発法人 水産研究・教育機構 中央水産研究所蔵)展示します。
「仁者は静を、智者は水を楽しむ」
冒頭の言葉に本書の精神が凝縮されています。
※「何羨録」には写本によって「何」と「河」の違いがあります。
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