釣道楽の世界展の見どころなどをご紹介するシリーズ。
第4回は「「江雪」と釣り」です。
昨今、「江雪」といえば、「左文字」を連想する方も多いとは思いますが、今回、釣道楽展でご紹介しているのは、唐の詩人で政治家の柳宗元(773~819)が詠んだ漢詩「江雪」です。本文は以下の通り。
江雪
千山鳥飛絶
万径人蹤滅
孤舟蓑笠翁
独釣寒江雪
おおまかな意味としては、「たくさん飛んでいた鳥がいなくなり、行き交う人々の姿も消え、小舟に乗った蓑笠をかぶった老人が、雪の降る川でたった一人釣りをしている」というところでしょうか。冬のさみしい情景が目に浮かびます。
この「江雪」は絵の題材として、古来、大変好まれたようで、老人が冬の川に浮かべた小舟から釣り糸を垂れる姿が数多く描かれました。「寒江独釣図」といったタイトルの絵を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
釣道楽の世界展では、この「江雪」が武士に与えた思想的影響について、「象徴としての釣り」というコーナーを設けて解説しています。「第Ⅱ章 釣りに宿る気風」の冒頭になります。
展示しているのは以下の3点。
・八景図/狩野探幽筆/延宝元(1673)年/1幅/福岡市博物館蔵
・漁翁図/斎藤等順筆/江戸時代初期(17世紀)/1幅/岩国徴古館蔵
・太公望図/河鍋暁斎筆/江戸時代後期~明治時代初期(19世紀)/1幅/板橋区立美術館蔵
写真:左=漁翁図(岩国徴古館蔵) 右=太公望図(板橋区立美術館蔵)
さてさて、武士たちは釣りを楽しむにあたってどんな理屈を考え出したのでしょうか?ぜひ会場でお確かめください。
ちなみに、こちらは今回展示していませんが、薩摩の戦国大名・島津家の家臣である上井覚兼(1545~1589)の随筆「伊勢守心得書」(東京大学史料編纂所蔵、『大日本古記録 上井覚兼日記』下巻に収録)には、この「江雪」にまつわる興味深いエピソードが書かれています。
「漁猟之事、是又年少之比者慰かてらに、蓑笠の翁ならね共、寒江之雪ニ釣を垂、五湖ならぬ遠嶋に独心を楽しミ候事とてハ、魚を得て筌を忘したるまてにて候」(『上井覚兼日記』下巻206頁)
「蓑笠の翁ならね共、寒江之雪ニ釣を垂、五湖ならぬ遠嶋に独心を楽しミ候」とはまさに「江雪」をふまえた記述です。釣り=「江雪」という連想が一般的な知識として、当時の武士層に浸透していたことがうかがえます。末尾にある「筌(うえ)」とは魚を捕まえる筒状の道具のことでしょうか。単に魚を捕まえるための道具である「筌」(の使い方?)を忘れ、釣りにこそ楽しみを見出していることがここから分かります。
一体どんな釣りをしたのでしょうかね。
学芸課 宮野
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