「やまいとくらし」後期展示では、疫病という切り口で歌舞伎関連資料を展示します。
なぜ歌舞伎? そう思われた方も多いことでしょう。
理由を一言で言うなら、「たのしい展示にしたいから」なのですが、もう少し、説明させてください。
新型コロナウイルスの流行以来、私たちのくらしは大きく変わりました。今なお、行きたいところに行ったり、会いたい人に会ったり、気軽に日々を生きることが憚られ、身体的にも精神的にも不自由を強いられています。経済的な負担も大きく、感染の収束とあわせて先の見えない不安が増大しています。コロナ下で目にした社会問題の数々は、時に腹立たしく、情けなく、しかし同時に個人で抗うには限界を感じざるを得ないものでもありました。どうにかしたい、でもどうしようもない、大きな流れを前にただ願うような気持ちでこの数か月を過ごされた方も少なくないことでしょう。
こうした状況下で、博物館にできることは何か? ずっと考えていました。
はっきり言って、ワクチンを開発したり経済支援を届けたり、直接的にコロナ禍を解決する手段をもたない博物館は、社会に求められているのだろうか?と、不安を抱く気持ちも半分ありました。
でももう半分には、博物館だからこそできる役割を果たしたい、探したいという気持ちもありました。
そして話し合い、探し、たどりついた答えが、この「やまいとくらし」リレー展示に詰まっています。
博物館が「いま」したいこと。すべきこと。
ひとつは、過去の疫病に関する情報をまとめることです。
これらは新型のウイルスに直結する情報ではありませんが、私たちが今とるべき行動のヒントとなり、先々も参照できるアーカイブになります。
また変わらぬ過去の人々の姿が、今の人々の心に寄り添ってくれるという確信もあります。
もうひとつは、すべての人にひらかれた安全なおでかけ先となること。
できれば、ちょっと気分の晴れる、たのしいおでかけ先になることです。
文字にすると取るに足らないことのようですが、個々人の抱える身体的・精神的な閉塞感、社会全体のストレスや無力感、そういった諸々を和らげるには、いま、安心して心を解放できる「たのしい場所」の確保が大切ではないか、とおもうのです。
なぜなら、市民のみなさんにとって「いま」みておきたいものとは、コロナ禍を乗り切るヒントが詰まったものだけでなく、コロナ時代を生きる元気が湧いてくるものでもあるんじゃないかと思うからです。
歌舞伎は、江戸時代以来、多くの人々を熱狂させてきました。江戸時代から明治にかけて、疫病や火災・天災、幕府の弾圧、社会の変化などで度々窮地に立たされながらも、身分を超えて支持者をあつめ、ともに逞しく乗り切ってきました。本展が、その熱量とパワーにあやかって、晴やかでたのしい展示を目指そうと考えたのは、上記のような理由からです。
10月下旬現在、世間では自粛ムードが少し薄れてきつつあるように感じられますが、まだ外出できない職業・地域の方も、依然多くいらっしゃいます。そろそろ外出したいけどやっぱり怖い、という声も聞こえてきます。外出はするけど安心できる場所じゃないとね、という人も多いでしょう。
まだおでかけできない方はインターネットで、おでかけしたくなった方は福岡市博物館の展示室で、どうぞ気分転換にご利用ください。
館内は、職員一同、消毒と換気を徹底しています。安心してお越しくださいね。
思ったより長くなったので、展示資料にまつわるあれこれは、次のブログにて!
(学芸課 佐々木)
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