埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。
この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。
本についてはコチラ。
この連載では「別冊 シーサイドももち」と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。
過去の記事はコチラ。
第1回(「よかトピアに男闘呼組がやってきた!」)
第2回(「ダンスフロアでボンダンス」)
第3回(「よかトピアの「パオパオ・ロック」とは。」)
第4回(「開局! よかトピアFM(その1)KBC岸川均さんが育てた音のパビリオン」)
第5回(「思い出のマッスル夏の陣 in 百道」)
第6回(「最も危険な〝遊具〟」)
第7回(「開局! よかトピアFM(その2)1週間の全番組とパーソナリティー」)
第8回(「ビルの谷間のアート空間へようこそ」)
第9回(「グルメワールド よかトピア」)
第10回(「元寇防塁と幻の護国神社」)
※ 2023.4.28 一部タイトルを変更しました。
〈011〉よかトピアのストリートパフォーマーたち
よかトピアでは、毎日会場のいろんな場所で同時にイベントをおこなっていました(その数の多さから、当時はイベント博と呼ばれたほど…)。
その時間・その場所だけの体験を大事にしていたよかトピアでは、一見通路や空地に見えるような場所も、イベントを楽しむメーンパビリオン「ひろば」として設計されています。
主な「ひろば」は3つ。
大きな駐車場側につながる東ゲート前の「東広場」、福岡タワー前の「であいの広場」、観覧車があるプレイゾーン近くの「こども広場」です。
(市史編さん室作成) |
この3つの「ひろば」では、朝から晩まで、入れかわり立ちかわりショーがおこなわれていて、パビリオンを移動する途中に偶然通りがかり、つい足をとめて見入ってしまう人も多かったようです。
なかでも、「東広場」「であいの広場」でのストリートパフォーマンスが人気でした(いっぽうの「こども広場」はこどもが楽しめるショーが多かったのですが、この話はまたの機会に)。
今回は会場を毎日盛り上げていた、よかトピアのストリートパフォーマーたちのご紹介です。
スパークルズ(3/17~3/19)
よかトピアのスタートを盛り上げたアメリカのパフォーマーです。お客さんからのリクエストにこたえて、風船で動物などをつくるバルーンアートを披露しました。
ロバート・ネルソン さん(3/17~5/14)
アメリカのサンフランシスコからやってきたネルソンさんは、お医者さんなのですが、インターナショナル・ジャグラーズ・アソシエーション(IJA)に参加するほどの技をもつプロのパフォーマー。「人をハッピーにするのが好き」というネルソンさんのジャグリングショーは、観客を巻き込んで、毎回ユーモアにあふれたものでした。
(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡'89公式記録』 〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より) |
メルビン・プラマー さん(4/12~5/14)
プラマーさんはイギリスのご出身。ブレイクダンスでこどもたちの人気者になりました。なかでもヘッドスピンは、大拍手間違いなしの得意技でした。
(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡'89公式記録』 〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より) |
ダニー・ヒグネット さん(4/29~6/4)
イギリス出身のヒグネットさんは、黒いハットとジャケットに、ハイカットのオールスターを履いたスタイリッシュな出で立ち。一輪車の世界チャンピオンであるヒグネットさんの技には、誰もが驚きました。そのいっぽうで、熊のぬいぐるみを使ったかわいいショーも披露するなど、緩急のある構成で観客を飽きさせないパフォーマンスでした。
(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡'89公式記録』 〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より) |
ストリートパフォーマンスの時間はだいたい1回30分弱なのですが、それを1日に3~4回やっていました。
たとえば、このブログの第1回で紹介した男闘呼組のコンサートの日(→〈001〉よかトピアに男闘呼組がやってきた!)、5月6日(土)の「であいの広場」のスケジュールはこんな感じです。
ロバート・ネルソンさん 11:00 13:00 14:30
メルビン・プラマーさん 11:30 13:30 15:00
ダニー・ヒグネットさん 12:30 14:00 15:30
3人が次々と入れ替わりながら常にショーがおこなわれていて、その頻度にびっくりします。
ちなみに翌日の5月7日(日)は、場所を「東広場」にかえ、さらに1人1回ずつ増やして、1日4回(×3人)もパフォーマンスしています…(今さらながらですが、パフォーマーのみなさん、本当にお疲れさまでした)。
ロブ・ソロフィア さん(6/6~6/18)
ソロフィアさんはアメリカのご出身。ナイフやクラブを使ったジャグリングに加えて、パントマイム、タップダンス、マジックも披露する多彩なプログラムでした。6月12日(月)には、リゾートシアターでもその技を見せてくれました。
バラエティ・イン・モーション(6/30~7/12)
アメリカ出身のマーディーンさんとリックさんのコンビです。覚えたばかりの博多弁で観客の笑いを誘いながら、コンビならではの迫力のある合わせ技を見せてくれました。
(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡'89公式記録』 〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より) |
ブルース・ジーン・スミス さん(7/6・19・26)
アメリカ出身のスミスさんのパフォーマンスは、1人でギター・ドラム・ハーモニカなどを同時に演奏する「ひとりオーケストラ」。3日間だけのパフォーマンスでしたが、独自のスタイルで記憶に残るショーになりました。
ラジャスタンの人形劇(7/13~9/3)
書籍『シーサイドももち』の「誌上よかトピア体験」でも紹介したラジャスタンの人形劇(124ページ)は、インドのラージャスターン地方に伝わる操り人形の演劇です。ナトゥ・ラム・ボーパさんが演奏する民族楽器「ラーヴァナハッタ(ラヴァンハッタ)」の音と、テジャ・ボーピさん(ナトゥさんのお母さん)の歌にあわせて、ラジ・クマール・バットさんが、糸を使って人形を動かしました。踊り子・蛇使い・音楽師の人形が登場して、かつての宮廷の宴の様子をユーモラスに演じました。
(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡'89公式記録』 〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より) |
ジョン・リー さん(8/10~8/20)
イギリス出身のリーさんは、よかトピアの3年前くらいから世界中を旅してパフォーマンスをしていたのだとか。綱渡り・背の高い一輪車・はしご歩きなど、見ていてドキドキするような技を、覚えたての日本語でのおしゃべりやジョークで楽しく見せてくれました。
「東広場」「であいの広場」は、オープンスペースのパビリオンとして毎日こうした楽しいショーを披露し、会場を行きかう人びとは、それに思わず足を止めました。
開催にあたっての基本構想は、よかトピアをいろいろな「みち」を通って人や物が「であい」、未来をつくるエネルギーを生みだす場所(「ひろば」)とうたっています。
会場内のオープンスペースでかわされるパフォーマーと観客との会話や笑顔や拍手は、そういうよかトピアの構想を象徴する光景になっていました。