埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。
この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。
本についてはコチラ。
この連載では「別冊 シーサイドももち」と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。
今年もよろしくお願いします!
過去の記事はコチラ。
第1回(「よかトピアに男闘呼組がやってきた!」)
第2回(「ダンスフロアでボンダンス」)
第3回(「よかトピアの「パオパオ・ロック」とは。」)
第4回(「開局! よかトピアFM(その1)KBC岸川均さんが育てた音のパビリオン」)
第5回(「思い出のマッスル夏の陣 in 百道」)
第6回(「最も危険な〝遊具〟」)
第7回(「開局! よかトピアFM(その2)1週間の全番組とパーソナリティー」)
第8回(「ビルの谷間のアート空間へようこそ」)
第9回(「グルメワールド よかトピア」)
第10回(「元寇防塁と幻の護国神社」)
第11回(「よかトピアのストリートパフォーマーたち」)
第12回(「百道地蔵に込められた祈り」)
第13回(「よかトピアのパンドールはアジアへの入り口」)
第14回(「あゝ、あこがれの旧制高校」)
第15回(「よかトピアが終わると、キングギドラに襲われた」)
第16回(「百道にできた「村」(大阪むだせぬ編)」)
第17回(「百道にできた「村」(村の生活編)」)
第18回(「天神に引っ越したよかトピア 天神中央公園の「飛翔」」)
第19回(「西新と愛宕の競馬場の話。」)
※ 2023.4.28 一部タイトルを変更しました。
〈020〉よかトピア爆破事件 「警視庁捜査第8版(ゴリラ)」現る
さまざまなイベントでにぎわったよかトピアですが、会期中にテレビドラマの撮影もおこなわれました。
そのドラマは、石原プロモーション制作の『ゴリラ・警視庁捜査第8班』。
1989年4月から1990年4月にかけて、テレビ朝日系列で毎週日曜20時に放送されていました。
よかトピアが舞台になったのは、第10回「博多大追撃」の回(6月18日放送)です。
監督は鈴木一平さん、脚本は宮下隼一さんでした。
警視庁捜査第8班(通称ゴリラ)は、凶悪犯罪を捜査するために、秘密裏に活動する警視庁の組織。
刑事部長の指示によって、班長の倉本(渡哲也さん)のもと、伊達(舘ひろしさん)・風間(神田正輝さん)・谷川(谷川竜さん)らが捜査にあたりました。
さて、なぜそのゴリラがよかトピアに現れたかというと、伊達の所轄時代の後輩、神奈川県警の中田(仲村トオルさん)が護送中の強盗犯、唐沢を取り逃がしたことに始まります。
20億の宝石を盗んだ唐沢は、盗品を東南アジアに売りさばくブラックマーケットのボスと仲間割れをおこしていました。
福岡に現れた唐沢とその仲間。
ゴリラもそれを追って福岡へ向かいます。
飛行機でいち早く福岡に着いた伊達は、福岡県警と合流して、盗品の宝石が持ち込まれた大濠ウェディングホールに行くのですが、そこで中田と鉢合わせます。
中田も唐沢を追って福岡に来ていたのでした。
ところがここで伊達と中田は花嫁の誘拐事件に遭遇します。
誘拐した犯人は唐沢の仲間。
この花嫁は花婿とともに大濠ウェディングホールで働く従業員、花嫁の兄は福岡駐屯地に勤務する防衛隊員でした。
捜査車両とともにカーフェリーでやってきた倉本らもここで合流し、捜査が本格化します。
ただ、一度は唐沢らを追い詰めるのですが、銃撃戦のすえに逃げられてしまいました。
その後、唐沢は身代金として花婿に1億円の宝石を要求します。
大濠ウェディングホールのジュエリーコーナーにそれだけの宝石があることを見越した要求でした。
さらにその受け渡しには、わざわざ中田を指名してきました。
取り引きの場所と時間は、よかトピアのFMスタジオ前に14時。
ここで風間が博覧会について「アジア太平洋博覧会、通称よかトピア。名前の通り、アジア太平洋の国々とそのほかの国際機関が参加しての、西日本初の国際級の博覧会だそうです」と説明します。
伊達は「1日平均3万から4万の人が入っている。やつらはおそらくそれに目をつけたのだろうな」と推測するのでした。
こうして、いよいよドラマの舞台はよかトピア会場に移ります。
会場全体の空撮映像が入り、会場内の様子が写し出されます。
ここで、山笠の飾り山、オアシス(休憩所)、パンドール(→ 〈013〉よかトピアのパンドールはアジアへの入り口)、大丸Ms.パビリオン、観覧車に加えて、このブログで紹介したロバート・ネルソンさんのパフォーマンスも見ることができます(→〈011〉よかトピアのストリートパフォーマーたち)。
山笠の飾り山 |
大丸 Ms.パビリオン |
さて、ドラマに戻ると、宝石を入れたアタッシュケースを手に、中田がよかトピアFMの前に到着します。
伊達は21世紀への飛翔館の前でモニュメントに身を隠し、風間・谷川もFM局の南側で中田を見守ります。
倉本はパンドールの前で捜査用に改造された三菱パジェロに乗り込み、車に備え付けたスコープで中田の姿を追っていました。
(市史編さん室作成) |
よかトピアエフエム |
21世紀への飛翔館 |
中田の時計が約束の14時を示すと、よかトピアFMのスタッフが中田にポケットラジオを渡します。
ラジオのスイッチを入れる中田。
※ちなみに中田の時計は今も中古市場で人気のセイコーのワールドタイム。デイト表示は放送日に合わせたのでしょうか、18日になっています。
平日14時と言えば、「NAGISA MUSIC PAVILION」の放送時間です(→〈007〉開局! よかトピアFM(その2))。
パーソナリティーの田中ゆきさんが「赤いハンカチ」をリクエストするメッセージを読み上げます。
そのメッセージは「花嫁はマリンアドベンチャー館で待つ」。
マリンアドベンチャー館とは、MITSUI・TOSHIBA館のことです。
8×22メートルのモニター(64面マルチシステムとモニター230台で構成)で、スペースレスキュー隊員ゴクーの時空超えた冒険旅行「マリンアドベンチャー・不思議 海中大冒険」を放映していたパビリオンです。
観客はみんなで客席のシューティング・ガンを使って隕石や宇宙船を狙い、総合得点が100点になると、ストーリーが進行する仕掛けでした。
MITSUI・TOSHIBA館 |
MITSUI・TOSHIBA館の巨大モニター |
MITSUI・TOSHIBA館に向かう中田、それにつづく伊達・風間・谷川でしたが、伊達はふと福岡タワーを見上げ、何かを思いついた様子。
伊達はタワーのエレベーターに乗り、外のデッキに出てそこからライフルを構えます。
中田はきちんと入館待ちの列に並んで、MITSUI・TOSHIBA館に入ります。
入館待ちの列には子どもを連れた家族連れが多く見えますので、ゴクーの冒険が子どもたちに人気だったことが分かります。
館内のシーンでは、ほんのわずかなのですが、今ではもう見られない「マリンアドベンチャー」の映像が写っていて貴重です。
さて、この暗い館内で犯人は中田を蹴り飛ばし、宝石入りのカバンを奪って走り去ります。
追う中田・風間・谷川。
中田から報告を受けた倉本は、車上からスコープを使って犯人の姿を捕らえ、タワーの上からは伊達が双眼鏡で犯人の行方を追い、犯人がタワーの前を通過し、海へ向かったことを伝えます。
犯人は会場を走り抜け、リゾートシアター(→〈001〉よかトピアに男闘呼組がやってきた!)の東側からビーチに降りて逃げます。
その先には無造作に置かれたモーターボートが見えますので、それに向かっているようです。
タワーやマリゾンを中心に 東西にのびるビーチ |
中田・風間・谷川がビーチの段差を飛び降りて、マリゾン側から犯人に向けて銃をかまえます。
倉本も車でビーチに向かいます。
※ビーチの波打ち際と陸側では大きな段差があって、現在のようになだらかではないようです。
ビーチで遊んでいた家族を人質にとる犯人でしたが、背後から倉本のライフルで腕を撃たれ、必死でボートへ向かいます。
しかし、そのボートには爆弾がしかけられていたのでした。
爆風で飛ばされた犯人。
このよかトピアでの一件は、ゴリラを誘い出して爆破する陽動作戦だったのです。
ここで仲間に裏切られた犯人の最後の言葉から、唐沢の狙いが花嫁を人質に防衛隊員の兄から武器を手に入れ、宝石のブラックマーケットのボスに復讐することが見えてくるのでした。
この後も、今は閉店してしまったオートバックス大橋店や、カーチェイスが繰り広げられる箱崎埠頭、荒津大橋など、福岡市内の景色がたくさんでてきますので、ぜひドラマでお楽しみください。
ストーリーやアクションはもちろん、大人気だった『西部警察』とのつながり、『あぶない刑事』へのオマージュなど、さまざまなしかけも楽しめるドラマです(「博多大追撃」でも館さん・仲村さんと浅野温子さんとの共演(?)がありました)。
このドラマがすごいのは、撮影はよかトピアを営業しながらおこなわれたことです。
撮影日は4月17日(月)、時間は7:00~19:00で撮り終えています。
この日の入場者は3万8000人。
これだけの人のなかで滞りなく撮影できるのは、映画でノウハウを身につけている石原プロだからこそでしょう。
たとえば、石原プロの代表作『西部警察』のうち、PART-Ⅲの第18回「パニック・博多どんたく」では、実際にどんたくをやっている町なかで撮影をおこなっています。
普通はセットを組んだり、エキストラに演じてもらうのでしょうが、演舞台やパレードも全部本物なのです…。
その分、今回のよかトピアのように当時の景色を楽しめたり、資料に使えたりするのですけど、現場のご苦労が想像できます。
実は、よかトピアで撮影した「博多大追撃」の脚本を書いた宮下さんは、『西部警察』の脚本家でもあります。
福岡ロケの第19回「決戦! 燃えろ玄界灘」も宮下さんの作品です(当時は宮下潤一と表記)。
この「決戦!燃えろ玄界灘」は福岡市の漁協の全面協力によって、博多湾で大漁旗をかかげた100隻の漁船が犯人の船を取り囲み、最後は海上で犯人の船を爆破した、『西部警察』のなかでも伝説の回です。
そういえば、このときの犯人も密輸組織でした。
福岡でのロケが決まってから脚本を書かれるのでしょうけど、よかトピアが掲げていた「であい」や「海の道」という福岡の特徴を、刑事ドラマ流に表現するとこうした形になるのでしょうね。
このよかトピアで犯人を追った神田正輝さん、実はこのあと別の作品でふたたびシーサイドももちを訪れています。
その話はまた今度に。
【参考文献】
・『アジア太平洋博ニュース 夢かわら版'89保存版』((株)西日本新聞社・秀巧社印刷(株)・(株)プランニング秀巧社企画編集、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1989年)
・『アジア太平洋博覧会―福岡'89 公式記録』((株)西日本新聞社編集製作、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1990年)
・『西部警察 SUPER LOCATION 5 鹿児島・福岡編』(石原プロモーション著、青志社、2017年)
※ クレジットのない写真はすべて『アジア太平洋博覧会―福岡'89 公式記録』((株)西日本新聞社編集製作、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1990年)より
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[Written by はらださとし/illustration by ピー・アンド・エル]
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