2023年3月24日金曜日

【別冊シーサイドももち】〈030〉百道の浜に舞いあがれ! 九州初の伝書鳩大会

埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。


この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。


本についてはコチラ


この連載では「別冊 シーサイドももち」と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。


過去の記事はコチラ。

1(「よかトピアに男闘呼組がやってきた!」)
2(「ダンスフロアでボンダンス」)
3(「よかトピアの「パオパオ・ロック」とは。」)
4(「開局! よかトピアFM(その1)KBC岸川均さんが育てた音のパビリオン」)
5(「思い出のマッスル夏の陣 in 百道」)
6(「最も危険な〝遊具〟」)
7(「開局! よかトピアFM(その2)1週間の全番組とパーソナリティー」)
8(「ビルの谷間のアート空間へようこそ」)
9(「グルメワールド よかトピア」)
10(「元寇防塁と幻の護国神社」)
11(「よかトピアのストリートパフォーマーたち」)
12(「百道地蔵に込められた祈り」)
第13回(「よかトピアのパンドールはアジアへの入り口」)
第14回(「あゝ、あこがれの旧制高校」)
第15回(「よかトピアが終わると、キングギドラに襲われた」)
第16回(「百道にできた「村」(大阪むだせぬ編)」)
第17回(「百道にできた「村」(村の生活編)」)
第18回(「天神に引っ越したよかトピア 天神中央公園の「飛翔」」)
第19回(「西新と愛宕の競馬場の話。」)
第20回(「よかトピア爆破事件 「警視庁捜査第8班(ゴリラ)」現る」)
第21回(「博多湾もよかトピア オーシャンライナーでようこそ」)
第22回(「福岡市のリゾート開発はじまりの地?」)
第23回(「ヤップカヌーの大冒険 よかトピアへ向けて太平洋5000キロの旅」)
第24回(「戦後の水事情と海水浴場の浅からぬ関係」)
第25回(「よかトピアへセーリング! オークランド~福岡・ヤマハカップヨットレース1989」)
第26回(「本づくりの裏側 ~『シーサイドももち』大解剖~」)
第27回(「開局!よかトピアFM(その3)今日のゲスト 3~4月」)
第28回(「まだまだあった! 幻の百道開発史」)
第29回(「開局!よかトピアFM(その4)今日のゲスト 5~6月」)

※ 2023.4.28 一部タイトルを変更しました。




〈030〉百道の浜に舞いあがれ! 九州初の伝書鳩大会


書籍『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』という本をつくった際、西新にかつて存在した「百道海水浴場」のことを調べていて、毎日毎日気が遠くなるほどの新聞記事をひたすらめくって記事をチェックしていたのですが、その中で気になるイベントを見つけました。

 

それがこちら。

 



_人人人人人人人_

> 伝 書 鳩 大 会 <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

そう、伝書鳩大会。なんじゃそりゃ……??

主催は海水浴場と同じく福岡日日新聞社(現在の西日本新聞社)のようですが、本書の中の「百道海水浴場年表」という超絶ニッチな年表には収録したものの、詳しい内容までは掲載できず。

 

というわけで、その後もずっと気になっていたこの不思議な大会について、ちょっと調べてみました。

 

* * * * * *

 

この社告にあるとおり、「九州伝書鳩大会」と銘打ったこの大会は大正14年に開催され、主催が福岡日日新聞社、「九州はとの会」が賛助として加わり行われました。

そもそも、通信社と伝書鳩の縁は深く、今のようにインターネットがない時代、もっとも早く写真などの画像を届ける通信手段として、伝書鳩が使われていました。西日本新聞社にも昭和33年までは屋上に伝書鳩を飼育する鳩舎があったそうです。

 

ぼくたちが届けます!
(※写真はイメージです)


さて、こうして百道で開催されたこの「九州伝書鳩大会」、当時の久留米師団など軍部をはじめ、九州一円の「愛鳩家」たちがこぞって参加、「本日の百道海水浴場は鳩の国と化する盛況を呈するであろう」と報じられました。

それもそのはず、調べてみるとなんとこれが九州で初めて開催された伝書鳩レース


そんな事もあり、皆さん気合が入っていたようで、なかでも久留米第十二師団参謀本部は、その年に生まれた幼鳩16羽を連れ、移動訓練も兼ねて「移動自転車曳鳩舎」とともに大会前から「百道テント村」(→第16回第17回)に滞在して百道の浜で飛翔訓練を行うという力の入れようだったそうです。


記事によれば、レースはまず午前7時に急行電車福岡駅に参加鳩を持ち寄り、午前10時には二日市駅、続いて久留米駅からそれぞれ放鳩。ハトが各自の鳩舎に帰着したものを百道海水浴場事務所前に設置した決勝点に持ち寄り、その到着順で決勝とした、とありました。

通常、鳩レースのルールは、同一の場所から飛ばしたハトが各地にある自分の鳩舎に戻るまでの時間を測り、その時間と距離から分速を算出して順位が決まります。ですが本大会では鳩舎を百道に持ち込み、そこをゴールとしたようです。


あくまでもハトの「帰巣本能」に頼る伝書鳩。
しかしそのメカニズムはまだよく分からないのだそうです。
(※写真はイメージです)

またそれとは別に、百道から福岡県水産場へ通信を搭載したハトを飛ばしたり、お昼からは百道―久留米間百道―志賀島間の往復リレーが行われたり、福岡日日新聞社の熊本支社や、その他若杉山など県内の林間学校からハトがやって来たり、とにかくこの日の百道はハト三昧!!  まさしく「鳩の国」です。

ちなみにこの時、熊本支局から3時間かけて運ばれたニュースは、南九州中等学校野球大会優勝戦の結果や当地の天気で、これらは海水浴場内に設けられた展示会場に展示されたそうです。展示会場では、レース鳩の展示や鳩具等の展示即売会なども行われ、これは一般の人たちも見学することができました。


二日市駅→百道(直線約20㎞)
久留米駅→百道(直線約38㎞)


熊本市→百道(直線約95㎞)


さてさて、肝心のレース結果はというと、とくに二日市から飛ばされた福岡市の中島自動車商会が飼育する「アキヅキ1号」が、久留米―福岡間約38㎞を所要時間25分で飛翔、分速1520mの好成績を納めました!

分速約1.5㎞ということは、時速にすると約90㎞……早ッ!!

それぞれの部門の優勝者には、福岡日日新聞社寄贈の賞状とメダル、それに東京大日本鳩具製作所寄贈の「銀足鐶」(鳩の足につける輪っか)が贈られたそうです。

 

最後は百道の空に300羽の「鳩笛」をつけたハトを一斉に飛ばし、まるで「空中オーケストラ」のように「百道の空に乱舞して異様の音楽を合奏しつつ一斉に帰還して行」ったそうです。帰還していったのか……。

 

かくして九州初の伝書鳩大会は大成功のうちに幕を閉じたとのことでした。

 


* * * * * *


いかがだったでしょうか?

いま考えるとなかなかカオスなイベントにも感じますが、当時の伝書鳩は報道でも軍事でも第一線の通信手段として広く使われていたため、一般へのハト人気も高く、想像以上に盛り上がったようです。

しかし九州で初めて開催された鳩レースが百道で行われたとは驚きでした。


ちなみに最後の「鳩笛」を付けた鳩を飛ばす「空中オーケストラ」、2014年の札幌国際芸術祭のオープニングセレモニーとして、あの坂本龍一さんが監修した「Whirling noise(ワーリング ノイズ) – 旋回するノイズ」として実施されていました。すごい!




このほかにも百道の浜では昔からまだまだ不思議なイベントが山ほど開催されています。引き続き紹介していきたいと思いますので、どうぞお楽しみに!





【参考文献】

・『鳩』第3年20号(大正14年8月15日、鳩園社)

・西日本新聞社史編纂委員会編『西日本新聞社小史』(1962年、西日本新聞社)

・一般社団法人日本鳩レース協会ホームページ「鳩レースって何?」/http://www.jrpa.or.jp/general/index.html

・新聞記事
大正14年7月30日『福岡日日新聞』朝刊3面「本日百道海水浴場で九州伝書鳩大会 久留米師団からも参加 競翔と展覧会と飛行機放鳩」
大正14年7月31日『福岡日日新聞』朝刊3面「百道海水浴場 九州伝書鳩大会 各地よりの放鳩大成功 三百羽の空中オーケストラ」


#シーサイドももち #百道海水浴場 #伝書鳩 #鳩レース #鳩の国


Written by かみねillustration by ピー・アンド・エル

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