2023年6月16日金曜日

【別冊シーサイドももち】〈041〉よかトピアでアジア旅 ― 三和みどり・エスニックワールドのスタンプラリー ―

    

埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。


この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。


本についてはコチラ


この連載では「別冊 シーサイドももち」と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。



過去の記事はコチラ。

1(「よかトピアに男闘呼組がやってきた!」)
2(「ダンスフロアでボンダンス」)
3(「よかトピアの「パオパオ・ロック」とは。」)
4(「開局! よかトピアFM(その1)KBC岸川均さんが育てた音のパビリオン」)
5(「思い出のマッスル夏の陣 in 百道」)
6(「最も危険な〝遊具〟」)
7(「開局! よかトピアFM(その2)1週間の全番組とパーソナリティー」)
8(「ビルの谷間のアート空間へようこそ」)
9(「グルメワールド よかトピア」)
10(「元寇防塁と幻の護国神社」)
11(「よかトピアのストリートパフォーマーたち」)
12(「百道地蔵に込められた祈り」)
第13回(「よかトピアのパンドールはアジアへの入り口」)
第14回(「あゝ、あこがれの旧制高校」)
第15回(「よかトピアが終わると、キングギドラに襲われた」)
第16回(「百道にできた「村」(大阪むだせぬ編)」)
第17回(「百道にできた「村」(村の生活編)」)
第18回(「天神に引っ越したよかトピア 天神中央公園の「飛翔」」)
第19回(「西新と愛宕の競馬場の話。」)
第20回(「よかトピア爆破事件 「警視庁捜査第8班(ゴリラ)」現る」)
第21回(「博多湾もよかトピア オーシャンライナーでようこそ」)
第22回(「福岡市のリゾート開発はじまりの地?」)
第23回(「ヤップカヌーの大冒険 よかトピアへ向けて太平洋5000キロの旅」)
第24回(「戦後の水事情と海水浴場の浅からぬ関係」)
第25回(「よかトピアへセーリング! オークランド~福岡・ヤマハカップヨットレース1989」)
第26回(「本づくりの裏側 ~『シーサイドももち』大解剖~」)
第27回(「開局!よかトピアFM(その3)今日のゲスト 3~4月」)
第28回(「まだまだあった! 幻の百道開発史」)
第29回(「開局!よかトピアFM(その4)今日のゲスト 5~6月」)
第30回(「百道の浜に舞いあがれ! 九州初の伝書鳩大会」)
第31回(「開局! よかトピアFM(その5)今日のゲスト 7月」)
第32回(「聞き書きの迫力~西新小学校100周年記念誌を読む~」)
第33回(「開局!よかトピアFM(その6)今日のゲスト 8~9月」)
第34回(「百道を駆け抜けていった夢の水上飛行機」)
第35回(「開局!よかトピアFM(その7)ここでも聴けたよかトピア」)
第36回(「幻の「百道女子学院」と須磨さんの夢」)
第37回(「開局!よかトピアFM(その8)『今日もリスナーさんからおたよりが届いています』」)
第38回(「西新町209の謎を解け!~建物からたどるまちの歴史~」)
第39回(「「地球をころがせ」を踊ってみた ―「よかトピア」オリジナル音頭―」)
第40回(「映える写真が撮りたい!~百道とカメラとモデルの雑史~」)







〈041〉よかトピアでアジア旅 ― 三和みどり・エスニックワールドのスタンプラリー ―


アジア太平洋博覧会(よかトピア)」(1989年3月17日~9月3日)が大事にしていたのは、アジア太平洋地域の人びとや文化との「であい」。


そのために、建物といったハードではなく、ソフト(展示演出やイベント)に力を注ぎました(ハードはソフトのためにあるという考え方でした)。野外スペースでのパフォーマンスや、自然の植物・水辺・生き物が展示に活かされたのも、そうした考えによるものでした。


これをよく表していたパビリオンが「三和みどり・エスニックワールド」です。


三和銀行(現在は三菱UFJ銀行)を中心とする三和グループ(22社が参加)が出展したパビリオンで、企画・設計・施工はトーヨー・アド(現在のT&Tアド)・東宝・東宝映像美術などがおこないました。


(市史編さん室作成)


エスニックワールドがかかげたテーマは「発見!体感! 文化と人の交流広場(アジアン・フェスティバルプラザ)」。


そのために、7400㎡もの広い場所を4つのゾーンに分けています。


まずはエスニックタワー。この建物のなかに、ネパール館チョモランマ体験館ブータンゾーンなどがありました(ここもおもしろいので、またいつかご紹介したいと思います)。

そのそばには休憩所やテイクアウトショップ。ただ、これもオープンスペースですので、屋外施設のようなものです。


こうした建物の面積は506㎡(一部2階建てでしたので、延床面積は565㎡)。そのほかは全部、野外スペースでした。


(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡’89公式記録』
〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より)


野外スペースの1つは「パフォーマンス・プラザ」です。100席の野外ステージと中央広場でできていて、連日イベントやパフォーマンスでにぎわいました。


もう1つは、エスニカル・ファンタジック・ツアーのスペース。「緑の迷路」と「スタンプラリー」の場所でした。


緑の迷路」は1200㎡にわたって広がる木々に囲まれた巨大迷路でした。そうそう当時は、巨大迷路ブームだったのですよね。懐かしい。ただこの迷路はアジアの木々のなかを歩き回りますから、まるでジャングルを冒険しているような体験ができました。


一方の「スタンプラリー」は、アジア11か国の歴史的モニュメントや文化をあらわした品を見つけて、スタンプを集めていくというもの。子どもたちが楽しみながら、アジア旅行の気分を味わえる企画でした。11個のスタンプをコンプリートすると、エスニックワールドオリジナルの缶バッジやジグソーパズルがもらえるというご褒美つきです。


エスニックワールドは、野外スペースを広くとってアジアの自然と環境を再現し、来場者に海外の国々に迷い込んだような気分を体感させることで、博覧会がかかげていた人と文化との「であい」というテーマを実現していました(そのため人気も高く、会期中の総入場者は191万3905人にのぼっています)。


しかもそうしたテーマを、子どもでも、スタンプラリーのように遊びながら、いつの間にか体感できるしかけがちゃんと用意されていました。


まさに「発見!体感! 文化と人の交流広場」でした。




ところで先日、福岡市博物館に収められているよかトピアの資料を見ていたら、このスタンプラリーのためのスタンプ帳を見つけました!

しかも誰かがちゃんと11か所をまわって、全部スタンプを押しています。


(福岡市博物館所蔵)


せっかくですから、このブログでスタンプラリーに参加してみたいと思います。

34年越しのエスニックワールドでのアジア旅行です…。




スタンプが置かれているモニュメントの場所は、スタンプ帳に書いてありました。①~⑪番の番号をふってあります。これなら子どもたちもスタンプを見つけやすいですよね。つぎつぎとモニュメントめがけて走り寄っていく姿が目に浮かびます。


(福岡市博物館所蔵)
スタンプ帳のなかのモニュメントの位置図




このスタンプ帳の図の方向にあわせて、先ほどの空から撮られたエスニックワールドの写真を回転させてみましょう。





左上に四角い屋根がならんでいるのが「エスニックタワー」、左下の川沿いに立つ建物と階段状の観客席が「パフォーマンス・プラザ」、右上に広がる木々が「緑の迷路」です。




これでなんとなく位置関係がつかめました。

では、さっそくスタートです。




まずは①番から。


① ブータン「グル・リンポチェ」

スタンプ帳では、エスニックワールドの入り口そばに①番と書いてあります。ここにはブータンの「グル・リンポチェ」像がありました。

「グル・リンポチェ」はチベット密教の開祖「パドマサンバヴァ」のこと。チベットやブータンでは、「グル・リンポチェ」として神格化され、よく知られているそうです。ブータンのお祭り「ツェチュ」では、その偉業をたたえて、生涯を伝える仮面劇が演じられ、観光客にも人気です。


(福岡市博物館所蔵。以下同じ)
スタンプ帳より




②フィリピン「ジープニー」

次の②番は①のすぐそばにあります。置かれていたのは「ジープニー」です。

フィリピンの乗り合いバスですよね。現地ではにぎやかな飾りや塗装で個性を競っていて、見るだけでも楽しい乗り物です。

このスタンプ帳を見ながら気づきました。これまで何度も見てきたものなのですが、この写真にエスニックワールドの「ジープニー」が写っていました。



福岡タワーと象という不思議な組み合わせに目を奪われてしまう写真ですが、その奥…。


アップにすると、

(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡’89公式記録』
〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より)

エスニックタワーらしき建物の前に「ジープニー」がちゃんと置いてありました。今までまったく気づいてなかったです…。




ちなみに「ジープニー」は、会場内の循環バスとして活躍しました。


(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡’89公式記録』
〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より)


ただ、循環バスとエスニックワールドのものは別の車。よく似ているのですが、フロントの屋根にかかげた文字がこっちは「MANILA」、循環バスは「PHILIPPINES」になっていたり、バンパーの形も違っています。現在、よかトピアの「ジープニー」が福岡市東区の貝塚公園に保存されているのですが、これは循環バスの方です。




③ ネパール「ボードナート」

続く③番は、スタンプ帳によれば、エスニックワールドの右上の木々のなかに番号があります。何やら大きく丸いスペースですが、ここにあったのは「ボードナート」(「ボーダナート」「ボダナート」)です。

実物はネパールの首都カトマンズにあって、高さ36メートルもある巨大な仏塔(ストゥーパ)です。エスニックワールドでは、それをやや小さく再現。それでも観客を見下ろす目玉は十分な迫力でした。





④ インド「ガネシュ・チャトュルティ」

④番は③番から歩いてすぐ隣り。ここには「ガネシュ(ガネーシャ、ガネーシュ)」の像が置かれていました。

「ガネーシャ」はヒンドゥー教の神。学問や富の神さまとして信仰されています。頭が象で、片方の牙が折れ、4本の腕を持つというインパクト大なお姿です。その生誕祭は「チャトュルティ」と呼ばれるもので、毎年8月末か9月初めにおこなわれています。この生誕祭では、ガネーシャ像を祀ったのち、最後は厄除けを願って川や海に流すのだそうです。





⑤ スリンランカ「アウカナ仏陀像」

④番から木々のなかを通り抜けて広場の方に出ると、四角い池の前に⑤番があります。そこに置かれていたのは仏像の頭

実物はスリランカ中部、アウカナの遺跡にある仏像で、高さが12メートルもあります。岩を掘り出してつくっているのですが、岩とは思えない緻密な造形が有名な像です。よかトピアではその頭部を再現。頭だけですが、その分、実物では遠く見上げないといけないお顔を間近で見ることができて、その精巧なつくりを体感できるようになっていました。





⑥ タイ「守門神」

次の⑥番は「緑の迷路」の奥に記されています。ここには「ヤック」と呼ばれる鬼の像が立っていました。迷路のなかにありますので、たどり着くまで子どもたちは苦労したのではないでしょうか…。

バンコクの「ワット・プラケオ(エメラルド寺院)」にも門ごとに立っていて、侵入者に睨みをきかせている鬼神です。鬼ではあるのですが、王の守護神として魔除けの役割を果たしてくれます。エスニックワールドの守門神「ヤック」は、タイの職人さんが現地でつくったもので、高さが8メートル。会場に設置したときは、わざわざタイから職人さんが来福され、クレーンで吊り上げてこの場所に置くというおおがかりなものでした。




タイでは睨みをきかせているヤックですが、よかトピアでは入場者を歓迎してくれているようにも見えます。森のなかにそびえ立つ姿は、博覧会のおなじみの景色として、たくさんの写真に残されています。


(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡’89公式記録』
〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より)


(福岡市博物館所蔵)
よかトピアの記念絵葉書の1枚



⑦ 中国「武人像」

「緑の迷路」を出てふたたび広場に戻ると、⑦番があります。

これは明代の武官の石彫。北京にある明の皇帝の陵墓(十三陵)の参道に飾られているものを参考に、よかトピアのために中国でつくったものだそうです。





⑧ 韓国「チャンスン」

⑧番は⑦番のすぐそば。ここは通路の両側に韓国の「チャンスン」が立てられていました。ちょうど川をわたってエスニックワールドに入る道の両側で、人々を迎えています。

「チャンスン」は寺院・村の入り口に立てられる魔除けの柱(長生標)です。木や石に恐ろしい顔が彫られているのが特徴。男女一対だったり、胴部分に「天下大将軍」「地下女将軍」などと書くこともあります。





⑨ シンガポール「マーライオン」

⑨番は川に向かって立っていた「マーライオン」。シンガポールの観光名所にもなっている、おなじみの姿です。

「マーライオン」は頭がライオン、体が魚の形をしていて、国名が意味する「ライオン(獅子)のまち」を象徴する像です。現地にはいくつかある「マーライオン」ですが、水辺で口から豪快に水を吐く姿は、どこも記念撮影スポットになっていますよね。よかトピアの「マーライオン」もシンガポール生まれ。博覧会のために、シンガポールから運ばれてきたものでした。





⑩ インドネシア「ガルーダ」

⑨番から「パフォーマンスプラザ」の前を通って、「エスニックタワー」の隣の森に向かうと⑩番があります。ここには「ガルーダ(ガルダ)」像が置かれていました。

「ガルーダ」はインド神話に出てくる巨大な霊鳥です。光り輝き、ヒンドゥー教のヴィシュヌ神を乗せて空を飛び回ります。仏教だと「迦楼羅(かるら)」として信仰されています。インドネシアでは国の象徴として国章になっていたり、航空会社の名前として使われていたりして有名ですよね。





⑪ マレーシア「ワウ」

⑪番は⑩番のすぐ目の前、「エスニックタワー」に近寄ったところです。ここには「ワウ」が飾られていました。

「ワウ」はマレーシアの伝統的な凧。美しいフォルムや鮮やかでいきいきとした色づかいに目を奪われます。凧にはテープが貼られていて、それが風で震えて音を出すことも「ワウ」の特徴のひとつ。その姿は生き物のようでもあり、空を飛ぶ絵画のようでもあります。






こうしてあらためてスタンプラリーでエスニックワールドのモニュメントを追ってみると、別角度の写真にもいくつか写り込んでいたことに気づきました。


(西日本新聞社編『アジア太平洋博覧会―福岡’89公式記録』
〈アジア太平洋博覧会協会、1990年〉より)


スタンプ帳の角度に合わせてみると、このような感じです。




②「ジープニー」、③「ボードナート」、④「ガネシュ・チャトュルティ」、⑤「アウカナ仏陀像」、⑧「チャンスン」、⑨「マーライオン」ははっきりとその姿が見えます。

⑦「武人像」と⑩「ガルーダ」はあまり見えないのですが、ぼんやりとこれかなという感じです。ただ、最初にご紹介した空から撮ったエスニックワールドの写真では、もう少しだけそれらしきものが写っています。⑥「守門神」もこちらの写真には見えます。


ただ、①「グル・リンポチェ」と⑪「ワウ」は建物のなかなのか、それとも軒下にあるのでしょうか、見つけることができませんでした。これは引き続き、写真を探してみます。




『アジア太平洋博覧会―福岡'89公式記録』によると、当時のエスニックワールドは、スタンプを探して押すために子どもたちの長い行列ができて、運動会を思わせるにぎわいだったそうです。みなさん、きっとコンプリートしてご褒美をもらえたのでしょうね。


ちなみにご褒美の缶バッジは5万個ジグソーパズルは10万個用意されていたそうです。


今回34年越しでスタンプラリーをコンプリートしましたので、ご褒美をもらえないのかな…(無理でしょう…)。


実は福岡市博物館の収蔵品には、そのジグソーパズルがあるのです。ただまだ見たことがないので、せめてコンプリートのご褒美に今度写真だけでも撮ろうと思います。そのときはまたご紹介します。







【参考文献】

『アジア太平洋博ニュース 夢かわら版'89保存版』((株)西日本新聞社・秀巧社印刷(株)・(株)プランニング秀巧社企画編集、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1989年)

・『アジア太平洋博覧会―福岡'89 公式記録』((株)西日本新聞社編集製作、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1990年)

・『発見!体感!文化と人の交流広場 三和みどり・エスニックワールド アジア太平洋博覧会─福岡'89 出展参加記録』((株)トーヨー・アド企画編集、三和グループ・アジア太平洋博出展委員会発行、1989年)



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Written by はらださとしillustration by ピー・アンド・エル 

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