2024年9月20日金曜日

【別冊シーサイドももち】〈092〉え、今度はガメラとギャオスですか!?―屋根に穴があいた福岡ドーム(その1)―

     

埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。


この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。


本についてはコチラ


この連載では【別冊 シーサイドももち】と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。







〈092〉え、今度はガメラとギャオスですか!?─屋根に穴があいた福岡ドーム(その1)─


よかトピア(1989年)が終わってすぐのころ、シーサイドももちがキングギドラに襲われたことを覚えていらっしゃるでしょうか。



1991年3月に公開された映画『ゴジラVSキングギドラ』(東宝)のなかでの話なのですが、前にこのブログでも紹介しました。




あのとき福岡上空に現れたキングギドラは、完成して間もない荒津大橋の方向から福岡タワーに近づき、タワーに一撃をくらわしたあと、天神・中洲方面に戻って、福岡のまちを破壊したのでした。


ただ幸い福岡タワーは倒れることはなく、まちづくりをはじめたばかりのシーサイドももちも壊されることはなく、難を逃れました(その代わりに天神・中洲方面が大変なことになりましたが…)。




キングギドラに見逃してもらったからというわけではないのですが、その後、実際のシーサイドももちではまちづくりが急速に進んでいきました。

駐福岡大韓民国総領事館(1990年)、ザ・レジデンシャルスイート福岡(1992年)、ふれあい橋(1993年)など、今もまちを代表する建物が次々と建てられています。


(福岡市史編さん室撮影)
ザ・レジデンシャルスイート福岡


(福岡市史編さん室撮影)
夜のふれあい橋。
百道浜(福岡タワー側)と地行浜(みずほPayPayドーム福岡側)
を結ぶ2階建ての橋。


シーサイドももちの建物ができていく過程はこちらをご覧ください(『市史だよりFukuoka』第22号)





そして何と言っても、1993年には福岡ドームが完成しました(現在のみずほPayPayドーム福岡)。


(福岡市史編さん室撮影)


(福岡市史編さん室撮影)
2024年からネーミングライツによって「みずほPayPayドーム福岡」となって、
ドーム正面にかかげられている看板も変わりました。



東京ドームについで国内2番目のドーム型、しかもその屋根は日本初の開閉式という、当時は誰もがその姿に驚いた福岡のランドマークの誕生でした。


ところが、このできたばかりの福岡ドームが壊される事件が起こりました…


また怪獣が福岡に現れたのです。



今度はガメラとギャオス


福岡市民からすれば、キングギドラに続いて「え、またですか!?」という災難となりました。




これは1995年3月11日公開の『ガメラ 大怪獣空中決戦』の話。


ゴジラは東宝の制作でしたが、ガメラは大映(現 KADOKAWA)の人気特撮シリーズです。



ガメラシリーズは1965年から1980年まで、昭和の間に全8作品が作られてきましたが、その後しばらく途絶えていました。


ブランクを経て、平成に入っての復活第1作がこの作品。


そしてこのあとに立て続けに『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年公開)、『ガメラ3 邪神(イリス)覚醒』(1999年公開)がつくられ、平成三部作として現在も人気が高いシリーズになりました。



映画の予告版でのキャッチフレーズは「超音速の大決闘。


前売り券を買うと、暗闇で光るガメラステッカーがもらえたそうです。




では、平成ガメラの第1作『ガメラ 大怪獣空中決戦』のあらすじを追ってみます。


映画の映像とあわせて見ていただきたいところですが、権利の関係で載せられませんので、一部はうちにありましたフィギュアを使ってお届けします(余計に伝わらないかも…。ぜひ映画をご覧ください)。


なおフィギュアは、株式会社バンダイのガシャポン「HG(HIGH GRADE REAL FIGURE)シリーズ ガメラ HGガメラ壱」(2021年)で、この映画のガメラ・ギャオスをかたどったものです(とても高いクオリティー)。ちなみにドームの方は球場でのお土産物だと思うのですが、よく由来が分かりません…。





フランスのシェルブール港からプルトニウムを積んで日本に向かう「海竜丸」と、それを護衛する海上保安庁巡視船「のじま」。

航海は順調でしたが、ミンダナオ島の南西約200キロの南太平洋で突然、謎の環礁に座礁します。


すぐに環礁が船から離れていったことや、水深3000メートル以上の海域での不自然な座礁、漁船の乗員からしばしば聞かれる目撃例から、これは環礁ではなく、移動する巨大生物ではなかったかと疑う意見も出ました。



「のじま」に乗っていた米森(伊原剛志さん)は、この件を調べることになった損害保険会社の草薙(小野寺昭さん)と行動をともにします。

そして、ついに赤道海流から黒潮にのって移動する環礁を見つけ、上陸に至りました。


そこで石碑とたくさんの金属の勾玉を見つけるのですが、石碑に体温と鼓動を感じた直後に環礁は動きはじめ、米森たちは海に投げ出されてしまいました。



一方、長崎の五島列島では、姫神島で見つかった大きな鳥の雛を調査していた九州大学の平田教授(名前のみの登場)との連絡が途絶え、漁船も無線で「鳥やーッ」の叫び声を残し消息を断つ事件が起こっていました。


平田の教え子で福岡市動物園につとめる長峰(中山忍さん)は長崎県警の大迫刑事(螢雪次朗さん)とともに姫神島を訪れます。

そこで見たものは、破壊された島と消えた島民たち、そして残された巨大なペリット(鳥が吐き出す未消化物のかたまり)に混じった平田の持ち物でした。



姫神島では3羽の鳥が発見され、それは翼長が15メートルにも及ぶ巨大なものでした。

長峰は観察するなかで、この鳥が光に弱い性質であることに気づきます。


やがて巨大な鳥が稀少動物であることを理由に、閣議によって捕獲することが決まりました。

捕獲するのは自衛隊ですが、環境庁審議官の斎藤(本田博太郎さん)はその方法を考えるように長峰に伝えます。


巨大な鳥を閉じ込められる場所に頭を悩ます長峰と大迫。



すると大迫は机に置いたスポーツ新聞の1面から、開閉式の屋根を持つ福岡ドームに誘い込むことを思いつくのでした。


(なるほど、ドームを巨大な鳥かごに見立てたわけですね)



いよいよ捕獲の日。


夜、屋根を開けた福岡ドームのなかには、巨大な鳥を捕らえるための罠がしかけられました。

3機の自衛隊のヘリが、光を使いながら姫神島から福岡ドームまで鳥を誘導する作戦です。


ドーム内の司令部で鳥を待つ長峰たち。



ところが開いた屋根からドームに降り立ったヘリからは米森が降りてきました。


米森は推定60メートル以上の巨大生物(例の環礁)が、海から一直線にここへ向かっていることを伝えます。

しかし環境庁の斎藤は、「こっちは15メートルの飛行生物で手いっぱい」だとこれを突き放してしまいました。


(巨大鳥の捕獲やら、巨大生物の接近やら、福岡はもう大変なことになりました…)



しばらくすると、作戦通りに姫神島からヘリの光で誘導され、3羽の鳥がドームに舞い降ります。



(個人蔵のフィギュアを合成)



ドームの屋根を閉めるよう指示する長峰。

そして動きはじめた屋根の下で、罠のエサに夢中な鳥にめがけ、筋肉弛緩剤がいっせいに射撃されました。



これにより2羽はしとめて檻に捕獲できたものの、屋根が締め終わる前に、1羽はドームの外に飛び去ってしまいました…


(個人蔵のフィギュアを合成)



一方、博多港では巨大生物が姿を現し、石油コンビナートに上陸しました。


そこに現れたドームから逃げ去った鳥を一撃で払い落とす巨大生物。

これを目撃した自衛隊ヘリのパイロット(佐藤二朗さん)は驚くばかりでした。



テレビではキャスターが福岡に怪獣が出現したこと、博多湾沿岸の福岡市西区・中央区・早良区・博多区に避難勧告が出たことを伝えます。


巨大生物がすぐそばを通る倉庫街では、屋台の客がラーメンどんぶりをひっくり返しながら一斉に逃げ惑い、中洲では逃げる人びとで狭い橋がごったがえしました。



しだいにドームに近づいてくる巨大生物。


(個人蔵のフィギュアを合成)




巨大生物があとわずか閉まりきらないドームの屋根を破壊したところで、2羽の鳥が麻酔から目覚め、口から放つ光線で檻を切断しドームの外に飛び出していきました。


(個人蔵のフィギュアを合成)
フィギュアの屋根は開いていて壊れてもいませんが、
実際はあと少しで閉まりきるところで壊され、
鉄骨がゆがみ穴があきました。



光を放ち猛スピードで回転しながら飛び立ち、それを追う巨大生物。



(個人蔵のフィギュアを合成)
実際は上空にあがってすごいスピードで回転して、飛び去っていきます。
こんなに変な回転ではないです…。



巨大生物たちによって大きな被害が出た福岡。

翌日からの新聞や週刊誌には、「福岡市民、恐怖の一夜」「ドームに怪獣出現」「福岡ドーム崩壊!!」「博多港の海底から怪獣浮上…」「博多港コンビナート炎上!!」の見出しが躍るのでした。




これは映画のほんの序盤、福岡に関係するところだけですので、このあとの展開は映画でぜひお楽しみください(あっという間の上映時間95分です)。


福岡のシーンはまだどちらの怪獣も名前が知られていないときでしたが、このあと、環礁(巨大生物)で発見した碑文の解析によって、巨大生物をガメラ、巨大な鳥をギャオスと名付けることが政府から通達され、物語は進んでいくことになります。




この作品は、大映・イマジカ・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズからなる「ガメラ製作委員会」が組まれ、大映・日本テレビ・博報堂によって製作されました。


監督は金子修介さんです。


ガメラの平成三部作すべての監督をつとめられたほか、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)も撮られていて、怪獣映画の歴史では欠かせないお名前になっています。

ほかにも『デスノート』(2006年)など多数監督作があります。



怪獣シーンなどの特技監督は樋口真嗣さん。


平成ガメラ3作はもちろん、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)の実写部分の特技監督もつとめられました。

近年では、『シン・ゴジラ』(庵野秀明さん脚本・総監督、2016年)の監督・特技監督として有名ですね。

撮るだけなく、撮られることもある方で、『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督、2001年)では秋葉原で高校生にかつあげされる大人を演じたり、テレビ版『私立探偵 濱マイク』の第6話「名前のない森」(青山真治監督、2002年)にも出演されています。



脚本は伊藤和典さんでした。


伊藤さんは『機動警察パトレイバー』シリーズ、『めぞん一刻』など枚挙にいとまがない人気脚本家さんです。



音楽は大谷幸さんのご担当。


アニメ『シティハンター』2・3、『新機動戦記ガンダムW』シリーズ、映画『免許がない!』(1994年)などたくさんのアニメ・映画音楽をつくられ、金子監督とは『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』でもご一緒されました。


主題歌は、爆風スランプの『神話』(サンプラザ中野さん作詞、ファンキー末吉さん・井上鑑さん作曲、ソニーレコード)で、物語ととてもよく合っています。

映画のサントラ盤も徳間ジャパンコミュニケーションズから発売されました。



怪獣デザインを担当された前田真宏さんは、アニメでも有名な方です。


ジブリ作品の『風の谷のナウシカ』(1984年)、『天空の城ラピュタ』(1986年)、『おもひでぽろぽろ』(1991年)、『紅の豚』(1992年)の原画などを担当されています。

『エヴァンゲリオン』シリーズにも参加されていて、話題となった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の監督のお一人でもいらっしゃいました。

『シン・ゴジラ』のゴジラのイメージデザインも前田さんによるものです。




のちの作品でも活躍される、そうそうたる顔ぶれで製作されたこの作品は大変評価が高く、数々の賞に輝いています。


代表的なところだけでも、第38回(1995年度)のブルーリボン賞では監督賞・助演女優賞第19回日本アカデミー賞では優秀助演女優賞(助演女優賞はいずれも中山忍さん)を受賞しています。


また、キネマ旬報ベスト・テン(第69回・1995年度)では、怪獣映画としては異例の6位に入りました。

ちなみにこの年のベスト10はこのような顔ぶれで、名作揃いのなかでのランクインでした。


キネマ旬報ベスト・テン(第69回・1995年度)

1位 『午後の遺言状』(新藤兼人監督)

2位 『東京兄妹』(市川準監督)

3位 『Love Letter』(岩井俊二監督)

4位 『幻の光』(是枝裕和監督)

5位 『写楽』(篠田正浩監督)

6位 『ガメラ 大怪獣空中決戦

7位 『深い河』(熊井啓監督)

8位 『KAMIKAZE TAXI』(原田眞人監督)

9位 『マークスの山』(崔洋一監督)

10位 『TOKYO FIST 東京フィスト』(塚本晋也監督)

10位 『渚のシンドバッド』(橋口亮輔監督)


人気は今も衰えず、撮影のバックステージやシナリオを載せた『平成ガメラ パーフェクション』(KADOKAWA、2014年)が出されたり、ついこの前も金子修介監督の著書が増補されて『ガメラ監督日記 完全版』(小学館、2024年)とし出版されたばかりです。



映画として成功を収めた平成ガメラ第1作ですが、やっぱり福岡のシーンが気になって、すみずみまで見てしまいます。


今、このブログの(その2)として、福岡のシーンをシーサイドももち的・福岡市史的に見てみた編を準備中です。

気長にお待ちくださればと思います。







【参考資料】

・DVD『ガメラ 大怪獣空中決戦』(株式会社KADOKAWA、2016年)

・『平成ガメラ パーフェクション』(電撃ホビーマガジン編集部 編集、アスキー・メディアワークス プロデュース、株式会社KADOKAWA 発行、2014年)

・金子修介『ガメラ監督日記 完全版』(株式会社小学館クリエイティブ 発行、2024年)

・白石雅彦『平成ゴジラ大全 1984~1995』(株式会社双葉社 発行、2003年)




シーサイドももち #アジア太平洋博覧会 #よかトピア #大映 #ガメラ #ギャオス #福岡ドームに穴



Written by はらださとしillustration by ピー・アンド・エル 

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