2024年8月2日金曜日

【別冊シーサイドももち】〈087〉スーパーシップ9、九州を乗せてフランスへ飛んでいく―よかトピアの九州電力パビリオン(その2)―

   

埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。


この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。


本についてはコチラ


この連載では【別冊 シーサイドももち】と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。








〈087〉スーパーシップ9、九州を乗せてフランスへ飛んでいく─よかトピアの九州電力パビリオン(その2)─


1989年のアジア太平洋博覧会(よかトピア)に出展した九州電力

パビリオンの名は「スーパーシップ9 夢飛行 電力館」でした。



このパビリオンは体感型シアターで、宇宙船「スーパーシップ9」に乗って宇宙コロニーから九州へ旅するというものだったのですが、この宇宙船、よかトピアの会期中に思わぬところへ飛んでいくことにもなりました。


(その1)に続いて、今回はそんな話です。


(その1)はこちらでどうぞ。




この「スーパーシップ9」は、開幕当初から人気が高かったパビリオンでした。


よかトピアの開幕は3月17日(金)だったのですが、早くも3月26日(日)には1日25回ある上映がすべて満席

この26日だけで1万人以上が入館したほどの人気でした。


7月24日(月)には、当時皇太子として来場された現在の天皇陛下も見学なさいました(このとき来訪されたパビリオンはこことテーマ館〈現在の福岡市博物館〉、それと福岡タワーの3か所でした)。


会期中(9月3日まで171日間)の総入館者数は、160万9909人にものぼっています。




そうなると入館待ちの列が長くのびる日も多く…。


特に雨天や暑い日だと外で待つのが辛いのですが、ここでは雨や日射しをよけるために1200名収容のテントをつくって、そこにベンチを置き、さらには冷風装置も備えて、待ち時間の負担をやわらげてくれました。


入館待ちの観客はベンチで休みながら、そこで披露されるピエロや着ぐるみのパフォーマンスを眺めて自分の入場時間まで待ったそうです(このパフォーマンスは全部で80日間実施されました)。




多くの入館者を集めるなか、その節目となった来場者には記念品がプレゼントされました。


10万人目、30万人目、50万人目、70万人目、90万人目、130万人目、150万人目、会期最後の退館者などなど。



記念品は、ヘッドホンステレオカセット(SONYで言うならウォークマン的なやつでしょうか)、Tシャツ記念メダルなどです。



Tシャツは福岡市博物館に残っていました。


こっちが表。

(福岡市博物館所蔵)


こちらが裏です。

(福岡市博物館所蔵)



ちなみにTシャツの表にもプリントされている「スーパーシップ9」のロゴは、九州電力の社内公募で決めたのだそうです。



記念メダルも博物館の収蔵品のなかにありました。


これがメダルが入ったケース。

(福岡市博物館所蔵)


月桂樹と天使が描かれていて、「VICTORY MEDAL」と書いてあります。

博覧会とは関係なさそうなので、何か既存のケースを流用したものかもしれません。


開けるとメダルが登場。

(福岡市博物館所蔵)


アップにしてみます。

(福岡市博物館所蔵)


パビリオンの概観が描かれていて、まわりには雲や植木があります。


パンフレットのイラストを見てみると、同じ構図で雲や植木が描かれていますので、メダルの元ネタはパビリオンのイラストっぽいです(ただ、両者には植栽などに細かな違いもあります)。

(福岡市博物館所蔵)
「夢飛行 スーパーシップ9 電力館」のパンフレット(表紙)


メダルの裏はこうなっています。

(福岡市博物館所蔵)


裏にもケースと同じく月桂樹のデザイン。

注文先にあらかじめ用意されていた優勝メダルのひな形を、「スーパーシップ9」仕様にアレンジしてつくってもらったのかもしれませんね。



Tシャツや記念メダルは福岡市博物館に残されていたのですが、残念ながらヘッドホンステレオは見当たりませんでした(見たかった…)。


もし今もお持ちの方がいらっしゃったらレア品かもです。




ちなみに、こちらはたぶんそういった記念の品々などを入れるための紙袋

パビリオンの平面図を描いたオリジナルデザインです。

(福岡市博物館所蔵)




節目の入館者のなかでも、さらに特別だったのが99万9999人目


100万人目の1つ前で、「スーパーシップ9」の9九州の9九州電力の9、このパビリオンらしいこうした数字の9が6つも並んだ記念の来館者です。



このときは記念品も特別バージョン。


いつもの品に加えて、星に名前を付けられる権利(「ステラレジストリー」システム)が贈られました。


99万9999番目に入館されたのは31歳の男性

プレゼントを受け取られた際、星の名には「こどもの名前を折り込みたい。これからじっくり考えます」と話されていたそうです。




ほかに「スーパーシップ9」のグッズで福岡市博物館に残されているものは、缶バッジシールがありました。


缶バッジはいろいろな機会に広く来館者に配布されていたようです(たとえば入館者が10万人を達成した日には400名の来場者に配られています)。

(福岡市博物館所蔵)



シールはこういう切手シートタイプ(3枚使ってありますが…)。

(どちらも福岡市博物館所蔵)




ところで、このパビリオンにはマスコットがいました。

スペースコロニーの形と名前にちなんだ「コロム」。


パビリオンのパンフレットには、この「コロム」をかたどったバルーンの写真が載っていました。

(福岡市博物館所蔵)
「夢飛行 スーパーシップ9 電力館」のパンフレット(部分)


黄色くて丸いフォルムがかわいらしいです。



ただ、ようくこの写真を見ると、バルーンの下にもキャラクターがいます…。



ここ。

(福岡市博物館所蔵)
「夢飛行 スーパーシップ9 電力館」のパンフレット(部分)


アップにしてみます。

(福岡市博物館所蔵)
「夢飛行 スーパーシップ9 電力館」のパンフレット(部分)


?!


なかなかシュールです…。



まずは、赤い上着にオーバーオールやジャンパースカートをまとった人型「コロム」が2人

どちらも肩から黒いショルーダーバッグをかけています。



そしてこの2人の間には、やけに頭が大きなもう1人の「コロム」

こちらは全身銀色に輝いていて、宇宙的な印象です。


この3人がまるで観光地での記念撮影かのように写っています…。



大きな頭の宇宙的「コロム」は、別の写真がパンフレットにありました。



これです。

(福岡市博物館所蔵)
「夢飛行 スーパーシップ9 電力館」のパンフレット(部分)



パンフレットによると、トランスフォーマー型なのだそうです。

パカーンと開くと、小さな「コロム」が現れるしかけ。


魅力的すぎます…。




さて、たくさんの観客を乗せた宇宙船「スーパーシップ9」ですが、開幕前には、こどもたちにこの宇宙船がどんな姿をしているか想像してもらおうというコンテストが開かれました。


これがその募集要項です。

(福岡市博物館所蔵)
電話番号は今もどこかで使われている番号かもしれないので
ぼかしました。



簡単に書き起こしてみると、このようになっています。

【募集対象】小学生低学年の部(1~3年生)/同高学年の部(4~6年生)

【画用紙】縱36.4センチ×横51.5センチ(横方向に使用。下の5センチに特徴を文字で記すこと)。

【受付】九州電力広報部アジア太平洋博覧会準備室

【募集期間】1988年10月1日(土)~1989年1月10日(火)必着

【賞】(各部)最優秀賞1名 金賞5名 銀賞10名 銅賞15名

【副賞】博覧会親子ペア入場券、自宅~会場の往復旅行券(JR九州)

【抽選】受賞者以外の応募者全員から抽選で80名に副賞と同じものをプレゼント


入賞作は小学生低学年の部から31作品高学年の部から31作品、あわせて62名の作品が選ばれて、会期中はパビリオンのなかに展示されました。


副賞は親子ペアでの会場までの往復旅行券と入場券


この副賞は、入賞者62名だけではなく、応募者全員のなかから抽選で80名にも贈られました。

そうすると、入賞者とあわせて142名

さらに親子ペアでのプレゼントですから、142名×2=計284名分の往復旅行券が贈られたことになります。


遠方からの応募もあるでしょうから、なかなかの太っ腹企画です。


自分の作品がパビリオンに飾られたり、招待券が当たったり、こどもたちの喜ぶ姿が目に浮かびます。

今も思い出に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。




こうして多くの観客を集めた九州電力のパビリオンでしたが、宇宙船「スーパーシップ9」の船室で観客が見ていた九州の映像は、実はフランスでも見られていました



フランスのポワティエ(Poitiers)にある「フュチュロスコープ(Futuroscope)」にフィルムが貸し出され、フランス語に吹き替えて上映されていたのです。



「フュチュロスコープ」は近未来をテーマにしていて、科学技術を駆使したアトラクションが人気のテーマパーク。

よかトピア開催中の1989年7月にオープンし、九州電力のパビリオンと同じ360度の全円周型シアターも備えていました。


今オリンピックで盛り上がっているパリからは南西方向、GoogleMapのルート検索によると、TGVを使って2時間30分くらいで行けるようです。




(GoogleMapより作成)


フランスでの上映に至ったのは、「フュチュロスコープ」の総支配人がよかトピアに来場された際、「スーパーシップ9」の映像に感動されたからなのだとか。


フィルムを貸してほしいと願い出られたため、福岡のよかトピア、フランスでオープンしたばかりの「フュチュロスコープ」、2か国で同時期に上映されることになりました。



よかトピアの会期中に、まさかフランスでも同じ「スーパーシップ9」に乗り込んで九州を旅して、九州の自然や博多祇園山笠を見ている方々がいたとは…。


今ならインターネットや衛星通信を使えば、2か国での上映は難しくないでしょうが、当時はフィルムそのものを送らないといけませんし、何より日本の福岡でそういう映像が上映されていると知ることも簡単ではないです。


これは、たくさん詰めかけた観客のお一人として「フュチュロスコープ」の総支配人が直接「スーパーシップ9」の映像に出会われたことで実現したものでした。



統計によると、当時海外からのよかトピア来場者は79か国、7万5848人でした。

ただ、このうちフランスはというと、この統計のなかでは「その他」に分類された2594人に含まれていますので、きっとほんのわずかでしかなかったと思われます。


福岡市の姉妹都市、ボルドーがよかトピアに出展していましたので、こちらがフランスのことをよく知ってはいても、フランスやヨーロッパ諸国から福岡を訪れる観光客は現在ほど多くはない時代。

フランスで上映された映像は、海外で福岡と九州のことを知る貴重な機会になったはずです。



「スーパーシップ9」はよかトピアのテーマ「であい」に導かれ、フランスまで九州を乗せて飛んでいったというわけですねー。




ちなみによかトピア閉会後、このブログの(その1)で紹介しましたように、バビリオンは撤去されて鉄パイプに戻っていったのですが、上映されていた映像は福岡市中央区薬院、通称「浄水通り」の「九州エネルギー館」に移されました。


「九州エネルギー館」は、九州電力が運営したエネルギーを楽しく学べる展示館です。

ミニチュアのダム(と言ってもけっこうな大きさです)で実際に水力発電をしたり、3Dシアターがあったり、こどもたちに人気でした(しかも無料)。



ただ残念…、2014年に惜しまれながら閉館しました。


かつての「九州エネルギー館」の姿はこちらでご覧になれます(懐かしく感じられる方も多いのではないでしょうか)。




かつて「九州エネルギー館」があった場所は福岡市のこのあたり。

福岡市動植物園の近くです。

(地理院地図Vectorを基に作成)



今の「浄水通り」の様子です。

写真奥方向に「九州エネルギー館」がありました。

「九州エネルギー館」や九電記念体育館があった場所は「グランドメゾン浄水ガーデンシティ」などに生まれ変わっています。


(福岡市史編さん室撮影)




「スーパーシップ9」は予想外のフランスまで飛んでいきましたが、実はこの宇宙船にはもう1つ違う目的地がありました。


この話はまた今度に。







【参考文献】

『アジア太平洋博覧会―福岡'89 公式記録』((株)西日本新聞社編集製作、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1990年)

・『アジア太平洋博ニュース 夢かわら版'89保存版』((株)西日本新聞社・秀巧社印刷(株)・(株)プランニング秀巧社企画編集、(財)アジア太平洋博覧会協会発行、1989年)

・『九州電力40年史』(九州電力社史編集部会編集、九州電力株式会社発行、1991年)

・ウェブサイト
 ・futuroscopeの公式サイト(フランス) https://www.futuroscope.com/en
 ・九州電力の公式サイト https://www.kyuden.co.jp/
 ・積水ハウス「グランドメゾン浄水ガーデンシティ」のサイト https://www.sekisuihouse.co.jp/development_business/case_study/project035/


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Written by はらださとしillustration by ピー・アンド・エル 

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