埋め立て地にできたニュータウン「シーサイドももち」の、前史から現代までをマニアックに深掘りした『シーサイドももち―海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来―』(発行:福岡市/販売:梓書院)。
この本は、博多・天神とは違う歴史をたどってきた「シーサイドももち」を見ることで福岡が見えてくるという、これまでにない一冊です。
本についてはコチラ。
この連載では【別冊 シーサイドももち】と題して、本には載らなかった蔵出し記事やこぼれ話などを紹介しています。ぜひ本とあわせてお楽しみいただければ、うれしいです。
〈100〉100回記念なので "数" をかぞえてみました。
2022年8月にスタートした【別冊シーサイドももち】ですが、コツコツと投稿を続けて今回ようやく連載100回を迎えることになりました~!
(実際には2回「増刊号」回があったので、今回は102回目なのですが)
ようやく100回の更新ですよ~~~!! |
せっかくの100回記念なので、何かシーサイドももちにまつわる「数」についての話をしたい…。
ということで、今回はシーサイドももちにある「あるもの」の数を数えてみることにしました。
それがコチラ。
われらが「よかトピア遺産」と呼んでいるものの一つ、よかトピアのマークが入ったレンガです!(地味!)
こちらのレンガ、その存在は意外と知られているようで、過去には西日本新聞さんの記事などでも紹介されたことがあります。
わたしたちも以前から漠然と「この辺にいくつかあるよね」といった程度の認識だったのですが、このブログが100回を迎えるということで、この機会にその数を数えたい! そしてあわよくばその場所を地図に落としてみたい! ということを思いつきました。
今回は、この漠然とした疑問を発端に始まった、狂気の調査とその記録をお届けします。
* * * * * * *
まずこのレンガについて。
これは、そこに刻まれたマークを見ても分かる通り、「アジア太平洋博覧会―福岡’89」(通称「よかトピア」)を記念して作られたものです。
ただ、その経緯やどこでどのくらい作られたのかなど、詳しいことは同博覧会記録にも載っておらず、「博覧会開催の記念として、都市計画道路地行百道線の歩道は博覧会のシンボルマーク入りのレンガを使用して整備され…」と書かれているのみでした。
(地理院地図Vectorを基に作成) この赤くなぞった道が地行百道線です。市道です。 |
まず得られた情報は「レンガは地行百道線の歩道にのみある」ということ。
そこで今回の調査は、この地行百道線の歩道をひたすら観察していくことにしました。
結論から先に言いますと、歩いてみて分かったのですが、どうやらこのレンガは地行百道線全域ではなく、TNC放送会館がある四つ角の「マリゾン入口」交差点よりも西側の歩道にだけレンガが残っているようでした。
そこで、この「マリゾン入口」を起点として、地行百道線の終点の「百道通り」交差点までの歩道に絞って調査することにしました。
(地理院地図Vectorを基に作成、以下も同様) |
調査ルートはこちらです。
マリゾン入口からスタートして百道通りまで行き、道を渡って今度は外側の歩道を起点のマリゾン入口まで歩きます。
当初の計画では一人でまわるつもりだったのですが、さすがに厳しいなと思い直し、さっそく広く優しき心の持ち主・編さん室スタッフTさんを捕まえ、半ば強引に仲間に引き入れることに成功しました。
調査計画は次のとおりです。
【調査日】
・2024年12月24日(火)
【調査員】
・2名(調査隊長K・調査員T)
【調査方法】
・歩道の中心から車道側と内側に分かれて調査する。
・地面のレンガからよかトピアマークがあるものを発見する。
・見つけたら地図になるべく詳細な場所をマッピングしナンバリングする。
・①マッピングした地図と当該レンガ、②当該レンガのみ、③周囲の情報が分かる様子、の3点を最低限撮影する。
※ 道路の内側の歩道を「内周」、外側の歩道を「外周」と呼ぶもの。
…ひらすらこの作業をひたすら繰り返します。
そして調査日は奇しくもクリスマスイブ。
そしてこの日の最高気温は11.9度。調査開始時の気温、9度…。
ビルに囲まれ極寒のクリスマスイブに、地面を凝視して歩きながら時折しゃがみ込んで何かを撮影する怪しげな中年女性が二人…(Tさん、ゴメン…)。
寒さに震え、たまらず途中のコンビニで暖を取り、かじかんだ手を購入した温かいペットボトルで暖め、そしてその怪しさから時折通行人に話しかけられることもありながら、心を無にしてひたすら調査を続けました(ホント、Tさんゴメン…)。
①マッピングした地図と現物を1枚。 |
②現物単体を1枚。 |
③位置関係が分かる写真を1枚以上。 …の作業を繰り返します。 |
この狂気の作業を2人で4時間続けて実施した結果、見つかったよかトピアマーク入りレンガの総数がこちら。
その数、なんと152個!
意外と多いな、というのが率直な感想だったですが、意外だったのは一番多いのが「世界の建築家通り」のエリアだったこと。
この辺はよかトピアの会場外なので、よかトピア開催中にはこのレンガを辿っていくことはできなかったのです(博覧会の期間中はフェンスで会場内に入れないようになっていた)。
よかトピア会場図と重ねてみました。 一番多い緑のエリアはよかトピア会場外なんですよ。 |
というわけで、今回調査した結果、152個のよかトピアレンガが見つかったのですが、博覧会閉幕後の開発によって一部道路が改装されていること、さらには2005年に発生した西方沖地震の際にシーサイドももち地区もいくつかの被害を受け、この地行百道線の歩道も一部改修されていることなどから、必ずしもすべてのレンガが残っているわけではなく、この数からすると当初はおそらく200個近いレンガがあったのかもしれませんよね。
…というわけで、数えてみた話としては以上でおしまいなのですが、なんとなくまだ漠然としていてちょっと伝わりづらいなと思ったので、うっかり先ほどマッピングした地図をグリッドで分割してみました。
約100×130m四方を1つのブロックとして、レンガがあるエリアは7つ(A-1、B-1、C-1、D-1、D-2、D-3、D-4)。
おお、思いのほか分かりやすくなったかも!
というわけで、このエリア別に、そこにあるレンガを1つ1つつぶさに見ていこうと思います!
※ ここから狂気の調査報告が始まります。
【A-1】7個(内周のみ)
A-1エリアのレンガは7つ。
せっかくすべてのレンガの個別写真を撮ったので、全員のアップ写真(レンガ)を卒業アルバム風にしてみました。
勢いで背景にグラデーションを配してみました。 こんな感じで見ていきますので、ついてきてください。 |
ここでは内周のみにレンガがありました。
個人的には「内4」なんかは場所も分かりやすくてオススメですね~。
「内4」からの眺め。 (どこにレンガがあるか分かるかな??) |
(こういうのがあと6つ続きます。あと数がどんどん増えます。)
【B-1】20個(内周のみ)
B-1も内周のみでした。
そして数もかなり増えて20個です。
ここは「総合図書館南口」バス停の近く、そしてサザエさん通りとぶつかるエリアなので、比較的見つけやすいと思いますのでオススメエリアです。
この中では断トツで「内9」がオススメ!
これは調査員全員(2名)の意見が一致して、形も残り具合も、何なら全レンガの中で一番のオススメレンガでした。
「引き」の写真がなかった…。 (しかも逆さまだった…) |
(この後、だんだん狂気が増していきます)
【C-1】13個(内周12個/外周1個)
B-1に続くエリアで、内周は割と均等に埋め込まれています。
内周には12個、そして外周にポツンと1個…。
この外1もなかなか味わい深い佇まいなので、オススメです。
こんなところに…!!(見えるかな?) |
ちなみにこのエリアにある「内32」のレンガは、書籍『シーサイドももち』の「まちにのこる「よかトピア遺産」」というコーナー(p.139)に掲載した写真のレンガです。
↑記録していたわけではなかったのですが、今回改めて写真を撮ったことで確定できました。
左が誌面。右が調査写真。 拡大して比較してみよう!(汚れとか…) |
この中のオススメとしては「内39」あたりは浸食されつつある雰囲気とちょっと独特な質感がなかなか味わい深いかと思います(伝われ…)。
味わい深く…ないですかね…? |
【D-1】1個(外周のみ)
そしてこのD-1エリア…なんと1個のみ…。
こうして見ると、なんだか一匹狼というか一人で闘ってきた孤高の不良みがありますよね(ない)。
なんでこのエリアはこんなに極端に少ないかというと、考えられる理由があります。
それはコチラ。
そう、歩道の植え込みの草が段々レンガに侵食しているんですね。
しかもちょうど落ち葉も落ちきって枯れ草が残っていたので、もしかしたらこれらを取り除くと、レンガがみつかるかもしれません。
【D-2】16個(外周のみ)
ここは外周のみにレンガがあり、その数は16個。
内周は先ほどの植え込みの浸食に加え、交番・公民館前は明らかに別のレンガで舗装されていたので、もしかしたら元々はもう少し数があったかもしれません。
ちょうど「ももち浜クリニックゾーン前」バス停(それから百道浜1号緑地のあずまや)のエリアなのですが、この辺りにもかなり密集していました。
この中のオススメは、「外17」。
焼きも均一で刻印が押された部分も色が均一です。刻印の深さもあって、またしばおクリニックさんの目の前なので、見つけやすいと思います(なかなか専門家っぽい感じになってきました)。
拡大して探してみよう! |
【D-3】51個(内周21個/外周30個)
D-3エリアにはなんと全部で51個のレンガがありました!
なお、このD-3からは一気に数が増えるため、内周と外周に分けてお送りします。
では、まずは内周から…。
D-3は内周に21個のレンガがありました。
こちらも「ももち浜クリニックゾーン前」バス停(北向き)から南へ向かうエリアです。
数も多いので、狙い目のエリアですね(何の?)。
ここでのオススメは「内48」。
これはすべての色が均一で状態も良く、汚れも少ないのでオススメ。最初に推した「内9」と並んで、ベストオブよかトピアレンガの座を狙えるレンガではないでしょうか。
これは見つけやすい!(本当に?) |
あと、味わい賞として「内53」を推薦します。
かすれ具合とちょっとくたびれた感じが、なんとも36年の蓄積を感じさせるレンガでした。
味わいの「内53」と写り込む調査員T。 |
続いては外周エリア。
ここはなんと30個のレンガがありました!
とくにももち調剤薬局さん前としばおクリニックさんの前が一番の密集地帯です。
なんでこんなにここだけ密集しているのか…あまりに数が多くて調査員Tも発狂寸前でした。
そんななかでのオススメとしては「外27」あたりはいかがでしょうか。
刻印の押しも均一で、なかなか美しい仕上がりかと思います。
場所はここ。 (よく見ると2つも写り込んでる!) |
【D-4】44個(内周19個/外周25個)
こちらも数が多く、全部で44個のレンガがありました。
D-3と同じく、内と外と分けてお送りします。
まずは内周から。
内周には19個のレンガがありました。
ここで特徴的だったのは、エリアの北側からかなり均等にレンガが置かれています。
左右にも同じような間隔で並んでいて、なんとなくこの辺りを担当された職人さんの几帳面な気質が見えるようですね。
ここでのオススメは「内66」。
クッキリ、ハッキリ刻印が押されていて、いいレンガです。
また場所も分かりやすく、世界の建築家通りの一番北側、「株式会社ベガ」(木島安史設計)と「オーリンビル」(葉祥栄設計)の中間地点にあります。
ここは場所も分かりやすい! |
もう一つ、「内70」もオススメ。
色合いが渋くていいですね。
この辺のレンガは渋い色味が多いです。 |
そして外周。
とうとう最後の写真になりました。寂しいですね…。
25個のレンガ一覧です。この辺りは比較的レンガの色が赤みがかったものが多かったですね。
そんな中、「外53」なんかは縁石に近いところにあって、落ち葉を少しどかすと出てきました。
こんなトラップもあるので気が抜けません。
ギリギリセーフ! でもこの奥にまだあるのかも…。 |
オススメは「外72」。
ちょっとざらついた感じもありつつ、さらに周囲にあるコケ?草?が、なかなかイイ味を出しています。
場所も百道通り四つ角にある「ネクサス百道M」(マイケル・グレイブス設計)の横と、比較的見つけやすい場所にあります。
建物とのコントラストがいいですね! |
* * * * * * *
というわけで、152個のよかトピアレンガを総覧してみました。狂気の調査成果にお付き合いくださり、どうもありがとうございました。
総覧してみたところ、配置する場所や個数、間隔、方向などに決まりはあるのかな…と考えながら調査したのですが、それらについては結局よく分かりませんでした。
マッピングされたものを見ても分かる通り、急に出て来たり急に途切れたりと、あまり規則性があるようには思えません。
調べたところ、レンガ舗装の耐久年数は明確なJIS規格などはないものの、一般的には15年程度と言われているそうです。
もちろんそれより早くダメになる場合もあれば、逆にもっと長持ちするものもあります。
シーサイドももちのレンガ舗装は1989年に作られた道路なので、一番古いものだともう35年以上が経過していることになります。
先にもあったとおり、2005年の西方沖地震での被害や、その他劣化による補修、あるいは周辺の開発による取り替えなども行われており、今回調べた152個は、今後減ることはあっても増えることはありません。
意外と数が残っていることが分かったよかトピアレンガ。
これだけの数を見てもなお、見つけるとやっぱりちょっと嬉しいものです。
皆さんもこのエリアを歩かれる際には、ぜひ足下にも注目してみてはいかがでしょうか。
快晴のクリスマスイブに私たちは何をやっているのか…。 |
書籍『シーサイドももちー海水浴と博覧会が開いた福岡市の未来ー』(2019年、福岡市)を刊行して、そこに掲載できなかった情報を中心に連載を続けてきましたが、気付けばもう100回。
引き続き、シーサイドももちにまつわるニッチな話題(だけとは限りませんが!)をお届けしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!
【参考資料】